ロードシーカー~ミチの探究者~
@nanato220604
プロローグ
――“静寂”が、その場を支配していた。
何も存在していないがために、空間が“静けさ”に満たされているというわけではない。
それは、「存在」が空虚ではなく、濃密であるがゆえの“沈黙”。
そこに存在している「存在」を、「世界」が息をひそめてじっと見守っているがゆえに生じた“静謐さ”、だ。
この何人足りとも犯し難い“深閑”を打ち破ることができるものがもしいるとすれば、それは「存在」自身、――そこで対峙している「彼ら」だけだろう。
……そう、「彼ら」、だ。
一方はこの場の、巨大な空洞の主たる赤い鱗の巨大なドラゴン。もう一方は四人組の人間たちだ。
彼らはもうだいぶ長い間、死闘を繰り広げている。空洞のあちこちに刻まれた傷痕から、そして、対峙している彼ら自身が負っている傷からもそのことが伺い知れよう。
どちらも体力はほぼ限界に達しており、気力の方も、せいぜいあと一撃を放てる程度だということをお互いが悟っている。
だからこそ、迂闊には、動けない。
しかし、動かないわけにも、行かない。
そういう危うい均衡がもたらす緊張の中で、“静”が“動”に変わるぎりぎりの境界線の上で、彼らは、せめぎ合っている。
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「ちぃッ!」
ラウンドの合間に、不敵な笑みに見える顔グラフィックと共に書き込まれた青年〈神官戦士〉の“発言”には、苦戦していることの「苛立ち」よりも、むしろ、強敵に出会えた「喜び」の方が強く感じられる。
トラッド――[ニヤリ]としたままで、
「なんつータフなヤツ!」
フェレス――[フッ]と笑い、
「泣き言を言うな」
絶妙のタイミングで――別に意図しているというわけではないのだろうが――、小馬鹿にしたような笑みに見える顔グラフィックの青年〈魔法戦士〉の“発言”が画面に加えられる。
フェレス――[普通]の顔に戻って“クール”に、
「かなりのダメージは与えているはずだ」
トラッド――[ムッ]として、
「んなことは分かってる!」
フェレス――[普通]の表情で“クール”に、
「確かにこちらのダメージも大きいがな」
トラッド――[ムッ]として、
「だ・か・ら、そんなこと
あらためて言われなくても
分かってるっつーの!」
ニオ――[プンプン]と怒り、
「もう! 二人とも止めなよ!」
そのまま延々と言い争いになりそうな青年二人の会話に、怒った顔グラフィックで少年の〈僧侶〉の書き込みが割り込む。
トラッド――
「いや、だって、こいつが」
フェレス――
「ウザいことをことをぐだぐだ」
ニオ――[プンプン]と怒って、
「今は、ケンカなんて
してる場合じゃないでしょっ!!!」
[おどおど]とした顔のトラッド、
[フッ]と笑って見せたフェレス、
同時にそれぞれの言い訳を始めた二人の書き込みがニオの“発言”でぴたりと止まる。
確かに、そんな余裕のある状況では、決して、ない。『プレイヤー』にはあるかもしれないが、少なくとも、“キャラクター”にはないだろう。
リメア――[ニッコリ]と笑い、
「多分、後、もう少しですから
みなさん、ガンバりましょう!^^」
“沈黙”したまま他のキャラクターたちの“発言”をじっと見守っていた女性の〈魔術師〉が、場の雰囲気を取りなすようにそう“発言”する。タイミングを見計らった合いの手に、ようやく我に返ったのか、おずおずと台詞が書き込まれていく。
トラッド――[おどおど]とした顔で、
「あー、いや、わりぃ」
フェレス――[目を伏せた]顔で、
「すまん」
ニオ――[ニッコリ]と笑い、
「分っかればいいけどさ~~」
済まなさそうな顔グラフィックで謝罪する戦士たちの言葉に対して、無邪気な笑顔グラフィックでニオの台詞が書き込まれる。だが、その“天使のような笑顔”は一瞬後には、にやにやとした意地悪そうな“小悪魔的な微笑み”のグラフィックに変わる。
ニオ――[ニヤリ]と笑い、
「で、どうすんの
“リーダー”?」
トラッド――[おどおど]とした顔で、
「どうするって
言っても、なあ……?」
困ったように見える顔グラフィックで、ぽつぽつと文字が書き込まれていく。
トラッド――[おどおど]とした顔で、
「真っ向勝負するしか
ねーんじゃないか?」
フェレス――[フッ]と笑い、
「そんなことだろうと思った」
“貴様という男は、つくづく単純だな”とでも言いたげな顔グラフィックでそう“発言”した〈魔法戦士〉に対して、[ムッ]とした顔で何か言い返そうとした『トラッド』の目の前で、ふと“フェレス”の顔が“笑みを浮かべる”。
フェレス――[微かな笑み]を浮かべ、
「まあ、こんな状況では
それしかないだろうがな」
リメア――[ニッコリ]と微笑んだままで、
「フェレスさんが
そんなふうに笑うの
初めて見ました」
[驚いた]顔のグラフィック入力を忘れたのか、先ほど入力した[ニッコリ]と微笑んだ顔グラフィックのままで、そう発言する女性〈魔術師〉に「そうだったか?」とフェレスは答えて、
フェレス――[フッ]と笑い、
「それで、俺は何をすればいいんだ?
くじ引きで決められた、
一応の“リーダー”?」
フェレスは、“意地悪に笑い”ながら、そう皮肉った。
トラッド――[トホホ]な顔で、
「ちょっとでも、お前を
いいやつだと思ったオレが
馬鹿だったよ」
“滝のような涙”(マンガチック!)を流しながら”ぼやいた”、「冒険を始める前に、コンピューターによるくじ引きで無理やり決められた一応“リーダー”」はすぐさま気を取り直して[普通]の“顔”に戻る。それを見て、パーティメンバーたちも、それぞれ[普通]の“顔”に戻る。
しばしの“沈黙”の後、
トラッド――[普通]の顔で、
「オレには、『意志力』カードが
手札にはゼロ、
セットしてるのは二枚しかないから
どうあがいても“必殺の一撃”は
使えない。
誰か、使えるやつは?」
フェレス――[フッ]と笑い、
「俺は使える」
ニオ――[苦笑]を浮かべて、
「僕はだめ」
リメア――[ニッコリ]と微笑んで、
「私は使えます」
トラッド――[普通]の顔のままで、
「そうか……」
しばし思案した後、
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「よし、じゃあ、オレは、
《守りの盾 SP》と
《防御を固める 3Lv》、
それに、
《アンチクリティカル 3Lv》を
セットするから、
みんな安心して一発ぶちかませ!」
ニオ――[ニヤリ]と笑い返し、
「んー、じゃあ、ぼくは、
トラッドに《メジャーヒーリング SP》
をかけるね。
今のトラッドの体力じゃ、
ドラゴンの〔攻撃〕に耐えられないかも
しんないからさ~~」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「そいつはありがてぇ!
体力の空きが5しかないんじゃ、
ドラゴン相手じゃヤバいからな」
ニオ――[ニヤリ]と笑い、
「SSSクラスのダメージを受けたら、
一発で気絶だもんね~~!」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「ダメージブロックが6つ分、
どーんと降ってきて、
はい、だめー!ってなもんだw」
フェレス――[フッ]と笑い、
「では、壁役はトラッドにまかせて、
俺は攻撃に専念するとしよう。
とっておきの一撃をぶちかましてやる」
リメア――[ニッコリ]と笑い、
「じゃあ、私は、
《全体魔法 2Lv》と、
《精神集中 2Lv》、
それに、
《ブリザード 3Lv》で行きます」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「よし、それで行こう! 行動順は、」
フェレス――[フッ]と笑い、
「ニオ、俺、リメア、トラッドでいいだろう。
トラッドはろくな〔攻撃〕ができそうに
ないからな」
トラッド――[ムッ]とした顔を一瞬浮かべた後、[ニヤリ]と笑って見せ、
「壁なんだから、しょうがねーじゃん!w」
リメア――[クスッ]と笑い、
「もし、私の〔魔法〕でも
ドラゴンを倒せなかったら、
止めの一撃をお願いしますね?」
トラッド――[ニヤリ]として、
「どうかなー? 案外、
フェレスの〔攻撃〕であっさり
倒せそうな気もするんだよなー」
フェレス――[フッ]と笑い、
「そうかもな」
ニオ――[ニヤリ]と笑い、
「じゃあ、今回のMVPは、
フェレスに決まりだね?」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「いや、今までの活躍を考えると、
オレにもまだチャンスがw」
フェレス――[フッ]と笑い、
「それには、貴様が
止めを刺さなくてはならないだろうな」
トラッド――[ニヤリ]と笑って見せ、
「つーわけで、みんな、手加減してちょ?w」
ニオ――[ニヤリ]として、
「で、僕らは全滅すると?(爆笑)」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「うわ、縁起でもないw」
ニオ――[普通]の顔に戻って、
「冗談はこれぐらいにして、
隊列はどうすんの~~?」
トラッド――[普通]の顔に戻し、
「オーソドックスに、
『ベーシック・トライアングル』で
いいだろう。
前列にオレで、中列にフェレス、
後列にニオとリメアだ」
フェレス――[普通]の顔で、
「いいだろう」
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「お前の許可がいるのかよ?w」
ニオ――[ジロリ]と睨み、
「まーたーケ・ン・カ~~?」
トラッド――[普通]の顔に戻し、
「わりぃわりぃ!
んじゃあラウンドをスタートすっぞ!」
ニオ――[ニッコリ]と笑い、
「いいよ~~」
リメア――[ニッコリ]と笑って、
「はい!^^」
フェレス――[フッ]と笑い、
「ああ」
パーティ全員の「意志」を確認して、『トラッド』は大きく息を吸い、
トラッド――[ニヤリ]と笑い、
「そんじゃあ、いくかっ!」
『トラッド』が、決定ボタンを押すと同時に、止まっていた時が流れ出す。
今、
レッド・ドラゴンとのファイナルラウンドが開始された。
“ロード・シーカー”
それは、
『ミチ』の探求者。
自分にとっての『道』を探す者、
好奇心のままに『未知』を追い求める者、
そういう者たちの総称だ。
彼らは、自分の心の赴くままに“探索”へと赴く。
深き森の中に、
暗き洞窟の中に、
あるいは、
戻ってこれぬやもしれぬ、迷宮の中に。
彼らは、また、名声と財宝を求め、進んで危険の中に身を投じる。
惑わせようとする謎の中に、
見抜けぬ者を搦め捕ろうとする罠の中に、
そして、
力及ばぬ者に無残な死を与えようと待ち構える魔獣との戦いの中に。
これは、そんな彼らの物語だ。
彼らはこうも呼ばれる。
すなわち、
〈冒険者〉と。
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