第一弾酒場にて③

 友人の紹介で対面し、互いに自己紹介などして、ずいぶん“クール”な奴だなという感想をトラッドが持ち始めた矢先に、


 フェレス――

『俺は、まだ〈戦士〉の経験が足りない。

 特に、《威力強攻撃 3Lv》は、

 二枚しか手に入れていない』


 トラッド――

『じゃあ、オレが、“教えて”やるよ』


 〈戦士〉としての経験は、フェレスよりトラッドの方が上だったので――この酒場では、トラッドが一番〈戦士〉Lv(今まで獲得した〈戦士〉スキルの合計Lv。〈戦士〉としての“経験”を表す。もちろん、“経験”を積んでいるからといって強いとは限らない)が高いのだ――、“教える”ことができる〈戦士〉スキルをトレードすること自体に文句はなかった。


 だが、どうやら、フェレスは違ったらしい。


 フェレス――

『貴様からは、

 《スキル》カードなど

 もらいたくはない』


 トラッド――

『ん? なんでだ?』


 フェレス――

『俺は、神などに仕えているやつから

 施しを受ける趣味は無い』


 トラッド――

『んなこと言ったって、

 お前だって、

 神さんからの施しを

 受けてんだろ?

 《キュアー》とか、

 かけてもらったこと

 ないのか?』


 フェレス――

『それとこれとは話は別だ。

 神などに隷属している輩からは

 何も貰う気はない

 というだけの話だ』


 トラッド――

『隷属とかw

 それは、ロールプレイにしても、

 言い過ぎじゃねーのか?』


 フェレス――

『とにかく、嫌なものは嫌だ』


 ランバートン――

『おい! 二人とも止めろよ!』



 結局、その時は、ランバートンの仲裁によってなんとか収まった――ちなみに、一応、トレードはした。言い合いのきっかけになった、《威力強攻撃 3Lv》と、仲直りの証しとして《マキシマム・スラッシュ EX》をフェレスに譲り、その代わりに、フェレスから、いわゆる「名剣」の部類に属する無属性のレア武器アイテム、今ではトラッドの愛剣になっている『ソード・オブ・ライアードⅢ』をもらった※――のだが、その後も、二人の仲は良好とはとても言い難い。


 ※この場合、《スキル》とアイテムの交換であり、そして枚数とレベルが不均衡であるが、トレードに関わる両者が納得できるならば可能である。運営としては不正やネットいじめの温床となる場合があるので推奨しない。付け加えるなら、トラッドがソード・オブ・ライアードⅢをとても欲しがっており、数に余裕があった《威力強攻撃 3Lv》とEXの《マキシマム・スラッシュ》で釣り合うと判断し、仲間たちに説明し納得を得たという事情もあろう


 友達の友達のため、パーティを組みたくないとも言えず、かといって、顔を突き合わせたくないがために酒場を変えるというのも、何だか逃げるようで面白くない。


 結果として、酒場で会う度にパーティを組む度に冒険の途中でなどなど、何かというと対立してしまっている。


 3Lvのクラス《スキル》は、“デッキ”に三枚まで入れることができる(2Lvなら五枚、1Lvなら七枚まで入れることができる)ので、まだ二枚しか《威力強攻撃 3Lv》を手に入れていないはずのフェレスは――もっとも、あの後、どこかで手に入れているかもしれないが――、トラッドの譲った《威力強攻撃 3Lv》を素直に“デッキ”に入れた方が〈戦士〉としてはその分強くなるし、それに、〈戦士〉スキル系のEXも持っていないはずなので、《マキシマム・スラッシュ EX》などはぴったりの《スキル》なのだが……。


(“腕”は、いいんだけど、なぁ……)


 何となく、ため息をもうひとつついて、『トラッド』は、首をぐるりとまわした。


 “フェレス”という“キャラクター”には、冒険中に起こる“アクシデント”への素早く的確な対処や、戦闘中に《スキル》を使うタイミングの判断などなど、殊に“プレイング”という面については、熟練の〈冒険者〉を自負するトラッドでさえ舌を巻かされることが多い。


 ――のだが、


(……馬が合わねーって言えば、それまでなんだろーが、なぁ……)


 フェレス――“クール”に、

「誰か“来た”ようだ」


 そんなとりとめもないことを考えながらぼんやりしていた『トラッド』に、フェレスが不意に“発言”する。デッキの編集はしていたが、周りが見えなくなるほど熱中はしていなかったらしい。


(うおっ!)


 トラッド――[普通]の顔のままで、

「そうだな」


 『トラッド』は内心かなり驚いていたが、そんなことはおくびにも出さず、何げない返事を返すことに成功した。


 確かに、誰かが“入ってくる”気配がする。

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