絶望の中に垣間見る、幻想と耽美

生者を襲い、そして喰らう死せる者たち……"亡者"が跳梁跋扈する世界。

暗い過去を背負いし青年剣士アスターと、人間の盾として亡者たちの只中に放り出された奴隷の少女メルが邂逅を果たしたことで、運命の歯車は大きく動き始める。

自己の存在理由は見出せず、帰る場所もない。唯一有しているのは"魂送り"と呼ばれる、歌と踊りによって亡者の魂を解放する能力。それも、粗悪な教育の中で習得した中途半端なもの。

命の恩人とも言えるアスターの旅に同行することを願うメルだが……

絶望しか存在しないような、退廃的な世界で繰り広げられる人間模様は決して綺麗なものばかりとは言い難く、親切な人もいる一方で、醜悪なる本性を剥き出しにする怪物の如き者たちも確かに存在する。

それぞれ闇を抱えるアスターとメルのすれ違いは痛ましく、それでいて切ない。特に、奴隷という境遇ゆえに自己の存在意義を見出せないメルの悲痛な叫びは、読み手の心を深く抉る。

幻想的であり、それでいて耽美的。絶望しかないような世界でアスターとメルが懸命に紡ぐ、苦難を乗り越えて手に入れる"今日"という瞬間。硝子細工の如きその輝きの美しさは、この作品ならではの、唯一無二の魅力ではないだろうか。

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