第8話
「ゲコゲコ。オレ様の無敵の体には剣なんか効かないゲコよ」
短剣を自分に向けてられているというのに、巨大イボガエルは余裕な顔をしている。ロロとの体格差が十倍近いのだから当然なのかもしれない。
「いいえ、効きます。鼻やお尻などの穴に突きをすればヌルヌルの体液で滑っても剣が入っていくはずです。そうすれば刃で肉が切れますよね」
「ギッ、ギクゲコ!」
「そして、それを繰り返せば出血多量でアナタを倒せるはずです」
ロロが短剣を突き出したまま走る。巨大イボガエルめがけて。
「うおー!」
「く、来るなゲコ!!」
弱点がバレたことにより身の危険を感じた巨大イボガエルは、それまでの余裕な態度とはうってかわり、短剣を突き出し近づいてくるロロに怯えるようにめちゃくちゃに手を振り回した。
「うわっ!」
巨大イボガエルがめちゃくちゃに振り回した手に当たり、ふっ飛ぶロロ。
「ゲコ?」
「うおー!」
立ち上がったロロが再び短剣を構え、巨大イボガエルに突進していく。巨大イボガエルが邪魔な者を追い出すかのように、ロロを手の甲で軽く払う。
「うわっ!」
巨大イボガエルの手の甲に弾かれたロロがふっ飛ぶ。何度も突進してくるロロだが、何度も手の甲で弾かれ、ふっ飛ばされる。
「お、お前弱いゲコ。足が遅いし、オレ様の攻撃を避けられないし、踏ん張る力もない。お前ではオレ様に勝てないゲコ。この女はもらっていくゲコー」
「いやー、助けて!!」
巨大イボガエルは泣き叫ぶルルンを舌で巻きつけ持ち上げたまま、倒れたロロに背を向けた。ねぐらに帰ってからジックリとルルンを食べるつもりらしい。
「……行かせない」
ヒザや手を擦り剥き血を流し、体中が土まみれでボロボロなロロがよろけながらも立ち上がる。
「ゲコゲコ、お前が何回立ち上がってもオレ様には勝てないゲコ。家に帰ってベッドで寝た方が幸せゲコよ」
「目の前で困ってる人を置いて逃げることなんかオイラにはできません」
ロロが強い意志を持った目で巨大イボガエルを睨みつける。
「人間ってのはおかしい生き物ゲコね。勝てないことが分かってる相手に向かってくるゲコなんて」
「たとえ勝てなくても立ち向かいますが、オイラに勝つ手段がないわけじゃないです」
「なに強がってるゲコか。お前のヘナチョコな剣がオレ様に届くことはないゲコ」
「たしかにオイラの剣じゃ倒すのは不可能だと思います。だから、使いたくはなかったですが、人を守るためですから………………これを使います」
ロロが自分の履いている薄茶色のミニスカートを右手でたくし上げ、左手でパンツを少し下ろす。
「――――お、お前なにをやってるゲコ!?」
「――――ロロちゃん、なにしてるの!?」
戦いの最中とは思えない行動に、巨大イボガエルとルルンが声を
「悔しいですが、弱いオイラが勝つにはこの力を使うしかないんです」
悔しさで歯を食いしばるロロが、魔力を自分の股間に集中させる。集まった魔力で、股間のアレを中心とした場所に半径十センチほどの魔法陣を構築する。
「
ロロが呪文を唱えると、股間のアレから消防車の放水のようにとてつもない勢いで大量の水が飛んでいく。
「うぐああああああぁー!」
ロロから放水された水を全身に浴びた巨大イボガエルの体が、光りながら消えていく。「あばばばばばばば!」ルルンも多量の水を浴び、息ができずに苦しみもがいている。
光りながら消えていっていた巨大イボガエルの体が完全に消滅した。そして、空気中に細かく分散した魔力と水分が松明の火に照らされ、夜だというのにルルンの頭上に小さな虹がかかっている。
「げほっ、げほっ!」
「大丈夫ですか!?」
ロロが巨大イボガエルから開放され、むせているルルンの元に駆け寄る。
「大丈夫です。ありがとうございま――――ってそれより、なんでロロちゃんの『おしっこ』でモンスターが消えたんですか!?」
「お、おしっこじゃないです。あれは【聖水】なんですよ」
「聖水!? でも、オ○ン○ンから出てましたよ〜。オ○ン○ンから聖水が出るなんてありえないです〜。だってオ○ン○ンから出るものから一番違うじゃないですか、聖水は」
「あの、そんなにオ○ン○ン、オ○ン○ン言わないでください。オイラの方が恥ずかしくなるじゃないですか」
謎の方法でモンスターが消えたことに疑問を持っているせいで、恥じらいを忘れてオ○ン○ンを連呼するルルン。手で顔を隠して恥ずかしがるロロ。
「じ、実はオイラのお父さんは普通の人間なんですが、お母さんは水の女神なんです。だから、お母さんの力の影響で、オイラが長時間触れた液体は浄化されて聖水に変わってしまう、という特性を持っているんです」
「長時間触れた液体が聖水に変わる? …………そっか! おしっこは長時間体内にあるから、排出されるときには聖水になっているってことですね!」
「そうです。だからモンスターにかけると聖水の作用でモンスターは浄化されて消えるんです」
「でも、あんなに大量に出るものなんですか? それもあんな勢いで」
ルルンは消防車のホースから出るような量と勢いだった理由について質問した。
「それは出すときに水の魔法で、水量の増加と水流の操作をしたからです」
「そんなに幼いのに魔法が使えるんですか!? 凄いですね〜」
「ぜんぜん凄くないですよ。お母さんが水の女神だから、水の魔法が遺伝的に使えるだけで、他の属性の魔法はどんなに頑張っても習得できなかったですから。オイラなんて…………」
「そんなことないですよ〜。だって自分の特性と魔法を上手く組み合わせて私を救ってくれたじゃないですか。ロロちゃんは私の命の恩人です。ありがとうございます!」
「命の…………恩人! オイラが!?」
ロロはルルンたちと出会う前のことを思い出していた。
おしっこが聖水として出てくるこの体質のせいで、同年代の子たちには「気持ち悪い」と、いじめられ。旅の途中でモンスターに襲われピンチな女性を助けようとパンツを下ろしたら「キャー、変態!」と、叫びながら逃げられて。
体質のせいで、そんな経験ばかりしてきたロロが、その体質のおかげで命の恩人だと感謝されて頭を下げてもらえた。これはロロが大泣きするには充分な理由だった。
「ロロちゃん大丈夫!? そんなに泣いてどうしたの?」
「すみません。嬉しくて。オイラのことを認めてもらえて」
「認めてるよ〜。ロロちゃんは優しくて強い戦士だって」
「ううっ、嬉しいです。ううっ」
ロロが両ヒザを地面につけて号泣する。ルルンがそのロロを包むように優しく抱きしめた。
ドタバタと龍馬が騒がしい足音を響かせながらルルンたちの元へ近づいていく。
「――カエルは! カエルはどこだ! オレがぶっ飛ばしてやる!!」
「龍馬さん。さっきの巨大イボガエルさんならロロちゃんが倒してくれましたよ〜」
「コイツが!? どうやって?」
「おしっこをビューっとかけたらシュワシュワっと消えていったんです」
「なに! アイツの弱点は人間のおしっこだったのか。今度同じタイプのカエルがいたら、オレがかけて倒してやる」
「ちょっとルルンさん、説明がざっくり過ぎます! このままじゃ龍馬さんがモンスターにおしっこをかける変態になってしまいますよ」
「え〜、ちゃんと説明しましたよ〜。どの辺りがざっくりなんですか〜?」
「おい! 他にも、おしっこが弱点のモンスターはいるのか!? どうなんだ!?」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてください。ゆっくり、ゆっくり一人づつ答えますからー」
ロロが二人に詰め寄られ困っている。でも、自分を拒絶せずガンガン来てくれる二人のことを好意的に思ってたりもする。
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