第4話
巨大な岩を持った重装鎧のゴブリンと龍馬は両者とも睨み合ったまま動かない。距離は三メートル程度。
「おい、なんでゴブリンがあんな巨大な岩を持ち上げられるんだよ」
「なんでって、私に聞かれてましても……あっ!」
「なんだ、なんか思い出したのか?」
「忘れてました〜! ハインツさんから聞いたんですけど、モンスターのなかには稀に特殊個体といって、特別な能力を持って生まれる個体がいるらしいです〜」
「そんな大事なこと忘れるなよ! なんでお前は毎回、大事なことをオレに教えてくれないんだ」
「すみません。私、昔から忘れっぽいんです――あっ、相手が動きますよ〜!」
ルルンに気を取られてるのをチャンスと思ったのか、重装鎧のゴブリンが龍馬に向かって突撃してくる。巨大な岩を盾にしながら。
「見切ってるぜ!」
龍馬がその攻撃を左にステップを踏んでかわす。そのまま拳に力を込めて重装鎧のゴブリンめがけて殴る。が、重装鎧のゴブリンが巨大な岩を横に振って龍馬の体を吹き飛ばす。
「ぐあああっ!」
吹き飛ばされた龍馬は、地面に左肩からぶつかった。受け身を取る技術がないせいで攻撃を受けたダメージに加え、着地のダメージも加わり体がボロボロになる。
「この野郎!!」
頭に血の上った龍馬が、重装鎧のゴブリンに向かって駆けていき、渾身の右ストレートを放つ。だが、その攻撃は巨大な岩で防がれた。岩の欠片がパラパラと地に落ちる。
重装鎧のゴブリンが岩を盾に、再び突撃してくる。渾身の力を込めて殴ったばかりの龍馬は、この攻撃をかわせず後方に吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
背中から地面に倒れる龍馬。重装鎧のゴブリンが仰向けに倒れたままの龍馬めがけて巨大な岩を振り下ろしてくる。この攻撃を龍馬が避けることは不可能だ、なぜなら仰向けに倒れているため、立ち上がろうとしている間に、岩に潰されるからだ。
「ギギギギャーン!」
「うわあああぁー!」
龍馬の悲鳴が闇夜にこだまする。
「――――勇者様あぶない!!」
ルルンが龍馬の学生服の
ズドン! 数秒前まで龍馬がいた場所に巨大な岩が叩きつけられた。地面はヒビ割れ、強い地震のような揺れが起きる。
「勇者様、大丈夫ですか〜?」
「ああ、ありがとう。助かったぜルルン」
ルルンのおかけで岩の直撃を避けられた龍馬が立ち上がる。だが、その前の攻撃で額が切れ、血がドクドクと溢れ顔面が真っ赤に染まっている
「勇者様、ここは一度逃げましょう」
「いやだ」
「いやだ、じゃないですよ〜。まず一度逃げて」
「――逃げるなんかありえねえ。アイツがオレの前に立ちはだかってくるんだから、オレはアイツを倒す。佐々森さんに早く会うために」
「無理ですよ〜。勇者様とあのゴブリンの相性は最悪ですから、近くの街の冒険者ギルドで魔法の使える人を雇わないと勝てません」
「そんな時間なんかねえ! オレはもう佐々森さんに会いたくて仕方ないんだ。お前に分かるか、好きな人に会えないこの辛さが。胸が張り裂けそうなほど辛いこの気持ちが!」
血塗れの龍馬が
「分かりました勇者様。もう私は止めません。全力であのゴブリンを倒してください」
「おう!」
龍馬が重装鎧のゴブリンの前に立ち、拳を構えて睨みつける。
「そこをどけ。オレが佐々森さんに会うのを邪魔するなら、お前を倒す」
「ギギギギィー」
重装鎧のゴブリンは巨大な岩を持ったまま動かない。
「そうか、なら倒す」
龍馬が両目を瞑り、大きく息を吸う。そして、大好きな佐々森さんの好きなのところを思い浮かべる。
どんなときでも諦めず、明るい笑顔なところが好きだ。
人の悪口を言わず、良いところを探そうとするところが好きだ。
柔らかそうな髪から香る、君の甘い匂いが好きだ。
こんな、なにもないオレを好きだと言ってくれた君のことが大好きだ。
龍馬のなかで佐々森さんへの愛がさらに高まっていく。そして、チート能力ラブパワーにより愛で力が増加する。溢れる力をオーラのように纏い、龍馬の周りの空間が歪んで見える。
「ギャガー!」
力が上がっていく龍馬に恐怖を感じた重装鎧のゴブリンが、巨大な岩を盾に突撃してくる。
龍馬がカッと両目を見開く。
「うおー!」
迫ってくる巨大な岩を、左右の拳の連打で殴り続ける。佐々森さんと連呼しながら。
「佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん、佐々森さん」
巨大な岩が、佐々森さん連呼の百連撃で砕け散る。盾代わりの巨大な岩がなくなり、慌てる重装鎧のゴブリンめがけ、龍馬が全力を込めた一撃を放つ。
「佐々森さーん!!」
「ギギガギャン!」
ドゴーン。龍馬の拳で重装鎧が割れ、破片とゴブリンの血が飛び散る。龍馬に殴られたお腹には風穴が開き、ゴブリンは地面にうつ伏せに倒れた。
「やった! やりましたね勇者様〜!!」
ルルンが飛び跳ねながら龍馬の元にやってくる。
「ああ、誰もオレが佐々森さんに会うのを邪魔させないぜ」
「で、勇者様どうするんですか?」
「は? どうするって?」
「まさかですけど、また私を置いていったりはしないですよね? モンスターに酷いことされかけた私を〜」
「あ、当たり前だろ。はははは」
龍馬は迷っている。佐々森さんに一秒でも早く会うため、本当はルルンを置いていきたい。だが、さすがにあんなことがあった直後だからそれは気が引ける。でも早く移動したい、だけど置いていくのはな〜。その二つの考えが龍馬の頭のなかをグルグルと回り続けている。
「馬はまだ動けないのか?」
「まだ無理ですよ〜。最低でも朝までは寝かせてあげる必要があります」
「朝までかぁー」
夜が明けるまではまだ時間がある。いますぐ移動したい龍馬は考える。なにかいい方法がないか。
「馬が馬車を引けないから移動できないんだよな。どうすればいい」
「待つしかないんじゃないですか〜?」
「そうだ! ――馬が馬車を引けないなら、馬に引かせなきゃいいんだよ!!」
「はぁ?」
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
「ちょっと勇者様! この方法、この方法は絶対に間違ってます〜!!」
「何言ってんだよ、これが一番早く移動できる方法だろ」
馬車の荷台にいるルルンが叫ぶ。馬車を引いて走る龍馬に向けて。馬は邪魔だからという理由で、馬車の荷台で寝かさている。
「振り落とされるなよ!」
「スピード、スピード出し過ぎですよ〜!!」
龍馬は馬とルルンを荷台に乗せ馬車を引いていく。暗い夜の街道を爆走しながら。
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