拝啓、漱石先生

自分に正直に生きる。
それは言葉としては理想的に思えても、実践すると何かと角が立って周囲からは厭われる。それが人の世界。

京子の在り方は『草枕』の冒頭を彷彿とさせるようでした。そして寄り添った犬たち、そこに自分の居場所と人生を見出しているようでもあり。

次郎視点で展開されるこのお話を客観的に眺めると、京子が次郎に漱石先生を見ていたという話にもに感じられます。夏の夜の京子の助言は、きっとヘクトーにまつわる記憶に基づいたものでしょう。

酷な身の上ながら陰鬱な話ではありません。
人の世は不都合でそう易々と生きられるものはないけれど、ゆったりと眺めれば小さな救いがある。そんな夏の夜の涼やかなお話です。

それこそ河原での京子の無邪気な振る舞いは、『草枕』の冒頭の続きに描写される、人の心を豊かにする芸術の尊さを象徴しているかのようでした。

素晴らしい作品です。
ありがとうございました。

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