主人公・内藤哲也は、将棋の棋士を志す男。幼い頃から才能に恵まれ、意気揚々と奨励会の門を叩くものの、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。上には上がいる――その厳しい現実を突きつけられ、私生活もうまくいかないまま月日は過ぎ、やがて奨励会退会のリミットが迫ります。迎えるのは、人生を懸けた最終局。果たして彼の運命やいかに。
特筆すべきは、中盤に訪れる衝撃的な展開です。一見すると奇矯な行動に思えますが、身も心も壊れる寸前の極限状態だったらあり得るかもしれないと、胸に迫るものがありました。この作品をシリアスと断じるか、コメディと評するかは容易ではありません。現実と同じように、その二面性は切り離せず、表裏一体としてそこに存在しているのです。
同作者による同じく将棋を題材とした短編『量子と精神』にも、格調高い筆致と独特のユーモアが共通して見られます。ただ、物語としての厚みや感動の深さにおいては、本作のほうが一歩抜きん出ているのではないでしょうか。もっとも、どちらも甲乙つけがたい傑作であることは間違いありません。
もちろん将棋の戦法の話です。
プロ棋士は狭き門。26歳までに昇格しないと、退会決定なのだとか。
主人公の内藤は、夢を叶えられるかの最終年。
不振の成績、台頭する若い才能。
残酷な現実と、激しい一戦。
まるで写生するかのようなリアルな描写が魅力の一つ。
将棋に詳しくなくても切迫感を感じるはず。
二つ目の魅力はタイトル通りの「悪手」。
勝負事に身を置く手前、神にすがる内藤。
最終局、つまりプロか退会かの瀬戸際で、声を聞きます。
――――攻めか、受けか
選び取った手で、最後に掴み取るものは?
すべての情報を集約しつくす結末が生む、爽快な読後感と深い愛。
素晴らしかった。
青山 翠雲さまの3作目。
プロの棋士たちの戦いを描いた全2作とは少し趣を変えた本作。主人公はプロになる前の段階、奨励会に属しています。しかし奨励会は修羅の世界。26歳になる前に奨励会からプロ4段に昇格しないと棋士にはなれないのです。主人公は年齢制限ギリギリのため、今回がプロ棋士になる最後の機会。もう崖っぷちで後がない。プレッシャーの中、少しづつ壊れていく主人公の運命は三段リーグの最終戦にまでもつれます。プロのタイトル戦以上に厳しい戦いに挑む主人公。神が授けた悪手が主人公の運命を変える!
ここまでの作品を読んで私は、青山さまは対決場面にとどまらず、もっと広い状況も描いた歴史小説も向いていそうだと思いました。
まず、
是非!! 読んでほしい!!
これは読むべきだ!! 後悔はさせない!
将棋の知識がないと難しい面もありますが、それでも、
これは人の心を動かす力を持っている作品です!!
とにかくリアルなんですよ……
後が無いって勝手に自分で自分を追い込んで、そうすると自分の周りから人が離れていって、もう神にすがるしかなくて……
そういう、人間の壊れ方がリアルなんです。
これで1万字以内なんですか……本当ですか……いやあ、感嘆のため息が漏れますな。
将棋の知識がなくとも、生きていく上で何が幸せで、どう、生きていくのか、というヒントとなりうるこの作品を読まない手はない。
是非!!ご一読を!!