限界の限界、その果てに。彼の選んだ道に、あなたは何を思う?

主人公・内藤哲也は、将棋の棋士を志す男。幼い頃から才能に恵まれ、意気揚々と奨励会の門を叩くものの、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。上には上がいる――その厳しい現実を突きつけられ、私生活もうまくいかないまま月日は過ぎ、やがて奨励会退会のリミットが迫ります。迎えるのは、人生を懸けた最終局。果たして彼の運命やいかに。

特筆すべきは、中盤に訪れる衝撃的な展開です。一見すると奇矯な行動に思えますが、身も心も壊れる寸前の極限状態だったらあり得るかもしれないと、胸に迫るものがありました。この作品をシリアスと断じるか、コメディと評するかは容易ではありません。現実と同じように、その二面性は切り離せず、表裏一体としてそこに存在しているのです。

同作者による同じく将棋を題材とした短編『量子と精神』にも、格調高い筆致と独特のユーモアが共通して見られます。ただ、物語としての厚みや感動の深さにおいては、本作のほうが一歩抜きん出ているのではないでしょうか。もっとも、どちらも甲乙つけがたい傑作であることは間違いありません。

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