神が授けた悪手
青山 翠雲
第1話 希望
内藤哲也は、6歳の時に祖父から将棋の手ほどきを受けると、将棋の面白さにのめり込みメキメキと力を付け、8歳の頃には祖父にはもう負けなくなり、より強い相手を求めて将棋道場の門を叩くようになっていた。10歳の小学4年生の時には地元の小学生には負けなくなり、12歳で出場した全国小学生大会では準優勝となり、この結果を元に奨励会への入会を決め、将来の目標を「将棋の棋士になること」とはっきりと定めたのもこの時だった。
棋風は子供らしからぬ「受け将棋」。大人顔負けの「先受け」の棋風で相手の攻め筋を悉く摘み取っていく。その棋風は、保守的な家柄であった内藤家のカラーが反映されたものだったかもしれない。父は市役所勤めの公務員、母は音大を卒業するも中学校で音楽の教員を勤めたのち、哲也と妹の舞依の出産を機に主婦となっていた。冒険はせず、石橋を叩いて渡るかの如き堅実な指し回しは落ち着いていると評されることもあれば、谷川十七世名人の代名詞である「光速の寄せ」とは対極にあり、面白味に欠けると言う人もいた。
哲也は家族はもちろん、地元の道場のみならず、昨今の将棋ブームとも相俟って地域のちょっとした誇りでもあった。もちろん、哲也自身も全国準優勝の実績を引っ提げ、意気軒昂として奨励会の門戸を叩き、羽生善治や森内俊之、藤井聡太がそうであったように奨励会6級に合格し、希望を胸にそのスタートを切ったのであった。
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