第11話 ベリーチェの微笑みはほろ苦い
ロックの杖を中心に風が巻き起こる。風は渦を巻き、徐々に大きくなり冷たい空気を周囲の魔物や人間に吹き付ける。
強力な冷気に魔物たちは瞬時に氷つき、真っ白に霜がおり、瞼や口からつららを垂らしていた。
甲板の上を通った冷気が消えた。ロックの使ったのは、コールドテンペストという上級魔法で冷気の嵐で、周囲のありとあらゆる物を凍らせる。
顔をゆっくりと上げるロック、彼の目に周囲が映る。真っ白に凍りついた甲板に、手すりなども凍りつき白い霜がつららのように垂れている。
「ふぅ……」
小さく息を吐いたロックは、体を起こし杖を左手に持って歩き出す。歩きながら右手を開いたロック、背負っていた剣が彼の右手に握られた。銀色に磨かれた細い刀身が氷に反射する光によってより輝く。
ピキ……
かすかに氷がきしむ音が聞こえた。ロックの耳に音は届いたが、彼は右の方に視線を動かしただけあるき続ける。直後にロックの背後にあった、二メートルほどの丸い氷を破って小さな魔物が飛び出した。
魔物は手斧を持った体毛がなく、腰巻きを巻いた紫色をして、丸い頭にギョロッとした目に出た下顎が出た醜い顔のゴブリンだった。
ゴブリンが飛び出して来た氷の中には、毛皮に覆われた大きな熊のような魔物がいる。飛び出したゴブリンはこれを盾にして生き残っていた。ロックは振り向かないゴブリンは持っていた、ゴブリンは彼が気づいてないと思い笑いながら持っていた手斧に力を込め飛び上がった。
「キシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
叫び声をあげながら背後からロックの首に斬りかかるゴブリン。持っていた手斧がロックの後頭部に向かって鋭く伸びる。
「おっと!」
鈍い音が甲板にする。ロックは右手に軽い衝撃を感じた。彼は右腕を曲げて背中に剣を伸ばした姿勢になっていた。
「俺の背中に目が…… ってか無駄だな」
振り向いたロックがつぶやいた。ゴブリンは額をロックの剣に貫ぬかれていた。飛びかかった勢いで自ら剣に飛び込んだゴブリンの顔面は、圧迫され目が飛び出しそうになり、目玉の縁や口から血が溢れだしていた。一目でゴブリンが、もう死んでいると理解したロックは、剣を静かに戻し横に振った。剣からゴブリンが抜けて飛んでいく。
グチャッと言う音がして甲板に、コブリンが叩きつけら血が飛びちり白く凍った甲板を赤く染める。血で染まった氷を見て、顔を歪めたロックが顔を左方向に向けた。彼の視線の先にはオークや人間の氷像が並んぢ得る。
「いつまで隠れてるつもりだ……」
ロックが氷像に向かって声をかけた。直後、パリンと言う音がして、鋭く槍が突き出された。黒い金属製の柄に真ん中に、青い宝石がついた十字形の刃を持つ槍が、正確にロックの喉を狙い伸びてくる。
「チッ!」
舌打ちをしたロックは右手を振り上げ、十字の刃の前に自分の剣を出した。
大きな音して突き出された槍は剣に塞がれ止まる。
「へえ。やるじゃない。あんたがロックね」
幼い少女のような声がして槍が下がっていく。槍は魔物と人間が凍った氷像の間から突き出されいた。
槍が戻っていくと同時に氷像が砕けて細かくなって崩れ落ちた。
「お前は……」
ロックの目の前に目元を蝶の仮面で隠した女が立っていた。女の背は低く薄い青い長い髪を後ろでまとめ、赤いリボンをつけた鼻は、丸く薄いピンクの唇をしていた。
女の格好は茶色のブーツに黒のズボンを履き、両手には手の甲にオレンジ色の宝石がついた、真っ赤なガントレットをつけ、濃い灰色のシャツの上に黒の金属胸当て装備している。彼女はロックを見てニコッと笑い、槍を右手に持って甲板に石突をつけ、左手を胸の前に持っていく。
「私はベリーチェ。あのドラゴンにお姫様が居るんでしょ?」
ベリーチェと名乗った女は、ヴィクトリアの方を向いて槍で指す。顔だけロックの方に戻して笑った。
「お姫様を素直に渡してくれたら命まで取らないよ。どうする?」
首をかしげて可愛く笑うベリーチェ、その表情から余裕が感じられた。もちろんベリーチェはロックが素直にクローネを渡すとは思ってなく……
「いくらだ?」
「へっ!?」
ロックの言葉にベリーチェが固まる。イラッとした顔でロックを不機嫌そうに口を開く。
「だからクローネを渡したらいくら払うかって聞いてんだよ。金額によっては渡してもいいぞ」
「えっと…… えぇ。お金……」
動揺した様子でオロオロとするベリーチェに、ロックはさらに言葉を続ける。
「支払うのに帝国ゲイルとかやめろよ。ここはリオティネシアだ。デナで払え。あと金額の最低は二千万デナだからな。それ以上を出せ! 絶対にだ!」
ベリーチェに矢継ぎ早に条件を告げるロック。口調は冗談っぽいが、目は真剣だった。帝国ゲイルはゲオボルト帝国の通貨でデナはリオティネシア王国の通貨だ。ちなみにロックが要求している額は、彼の趣味の魔物レースの過去の最高配当金である。
二千万デナという金額は超高額で、貴族から領土の一部を買い取れるほどの額だ。
「……」
ロックにいろんなことを言われて黙り込むベリーチェ、しばらくしてしびれを切らしたロックが口を開く。
「答えないのか? どうするんだよ。早くしろよ」
詰め寄るロックに追い込まれたベリーチェだった。ロックの意外な答えに動揺していたベリーチェだったが、もともと彼女は強引にクローネを奪うつもりだったことに気づく。
「はっ払わないわよ! だいたいさ。こういう時に姫様を売る? 普通さぁ。あんたの立場だったらふざけるなっていうところじゃないの?」
「ふざけてるのはそっちだ! 金によって動くのが人間だろうが!」
堂々と答えるロックにベリーチェは彼を嫌悪した。
「さっ最低ね!」
「お前に言われる筋合いじゃねえよ。でも、これで交渉決裂だ…… なっ!」
ロックは右腕を引いて前に突き出した。ベリーチェの胸に向かって剣が伸びてくる。
なんとか反応したベリーチェは、右手に持っていた槍でロックの剣を弾く。槍にあたったロックの剣の軌道はそれ止まった。
「ちょっと! あんた本当に姫様の護衛なの? 卑怯すぎるでしょ!」
「俺は正々堂々と戦うのがモットーの聖騎士様じゃないからないんでね!」
「ちょっと!? もう!」
ロックは槍の柄にあたった剣を滑らせて下ろしていく。ベリーチェの右手首を狙っている。慌てて槍を引いたベリーチェ、ロックも腕を曲げ、すぐに剣を引き前に足を出し間合いをつめる。
彼は左に持っていた杖を逆手状態でベリーチェに叩きつけた。
「キャッ」
杖はベリーチェの胸を叩く。彼女はよろめいて槍の刃先が下に下り一メートルほど後ろに後ずさりする。ロックは杖を引いて今度は右手を振り上げた。
「もらった!」
叫びながらロックは右手に持った剣をベリーチェに向けて振り下ろす。とっさに左を開いて前にだしたベリーチェ、ガントレットは表面が赤く、手のひらの部分だけ黒い光沢のある革製になっている。
「チッ!」
手のひらが真っ赤に光った。ロックは慌てて右足を引いて体を斜めにそらした。直後、ベリーチェの左手から炎が吹き出した。炎はロックの目の前をかすめ、彼の前髪数本と服の胸の当たりを少し焦がした。ベリーチェがさらに左手をロックに向けた。ロックは左足で地面を蹴って飛び上がる。
ロックは甲板から三メートルほどの高さに浮かんでいる。眼下では吹き出た炎が自分の居た場所を燃やしていた。
「さすが魔法使いさんね……」
空に浮かんだロックを見て笑ったベリーチェだった。ロックは彼女から、数メートル離れた甲板に下りて着地する。
「面白いもん持ってんな」
「そうなの。サラマンダーガントレットって言うのよ。精霊サラマンダーの宝玉が炎を自在に操らせてくれるのよ」左手を見ながらうっとりとした表情するベリーチェだった。ロックはベリーチェを見て小さくうなずく。
「なるほどな。それで俺のアイスキャノンを防いだわけか?」
「そうよ。炎の精霊の力はあんたの魔法なんか目じゃないのよ」
ニッコリと微笑むベリーチェ、刃先を前にだして槍を構える。
「さぁ。さっさと終わらせて姫様をもらっていくわ!!」
ロックに向かって叫ぶベリーチェだった。ロックは足を軽く曲げて体勢を少し低くし、右手首を回し剣を回転させながら笑う。
慌てる様子もない彼の態度がベリーチェは不服だった。
「ふん。余裕ね。あんた達も私の姿を見たんだからただで帰れると思ってるの?」
「おっ!? なにかくれるのか? 金でいいぞ。サウザーでレースの種銭にするからよ」
ベリーチェの質問におちゃらけるロック、彼女の怒りが爆発する。
「いい加減にしなさい! 金、金って…… あんたなんか! 私の敵じゃないのよ!」
叫び声をあげたベリーチェは、両手に力を込め槍を振り上げた。眉間にシワを寄せたベリーチェの表情は怒りに満ちていた。
ベリーチェは槍を振り上げた体勢のまま走り出す。彼女が両手で持った槍が赤い光を放ち、刃先の周囲には炎が上がり黒煙が立ち上る。
サラマンダーガントレットの力で、炎を宿したやりは高熱を周囲に巻き散らす。ロックのコールドテンペストで、凍ついた甲板やマストなどを溶かしていくのだった。
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