シン・ウルトラマン ー2022.5.26.

監督:樋口真嗣



「あおる構図とレトロモダン」


子供の頃、「帰ってきたウルトラマン」を見て育った。

これは見逃せぬと鑑賞。


まず映像。

新しいのにどこか古い。このバランスが絶妙だった。

物語の展開はかなり早く、矢継ぎ早で見逃したものも多いと思っているが、

デティールの贅沢さ

(重機に銃器、モブ等人海戦術、ジオラマ&CG混合、小道具、質素だがあんがい仕立てよく見える衣装等)には新しさを、

しかしながらゴチャゴチャさせない淡泊な見せ方にレトロを感じた。

あいまれば子供向けとは言い難い落ち着いたシブさが漂い、

カイジュウが暴れたところで着ぐるみを連想することなく、いい大人ものめり込んで鑑賞できた。

かつ、凝った構図のショット、特に多用される「あおり」アングルがいい。

どのシーンも相当こだわっているように見えたのはわたくしだけか。

空間を魅せる遠近の妙。

心理的効果を狙ったアシンメトリー配置の手練手管。

抜かりなくスタイリッシュだった。

そもそもウルトラマンは大が小に、小が大に見えてしまう錯覚、「特撮」のキングである。

あおりの多様には、そうした放送開始当時へのリスペクトすら感じている。

(のちにこれを当時の監督(?)の名前をとり、実相寺アングル、というらしいことを知る)


次に物語。

おそらく「シン・ゴジラ」的なものを期待して鑑賞するだろう観客に

しっかり応えているあたり、優しい。

政治も物理もなかなかハードな語彙と展開が矢継ぎ早ながら

100%理解できずとも物語にはついて行けるギリギリのラインが

これまた絶妙と感じた。

淡々と進むがあんがいと壮大な事件で、座して死を待つ人類には

リアル世界のいつ第三回目の大戦がはじまっても・・・を過らせ少し寒くなる。

そのほか、過去作に登場したエピソードやキャラクターがここで再登場、

と思えるものも多く詳しいファンであれば焼き直し総集編、

としてまた違う楽しみ方が出来るのだろうなと感じる。

(残念ながらそこまで記憶は定かでなかった)


もうひとつ印象的だったのは本作における「女性」の撮り方だろう。

うるうる、きらきら、アイドル、アニメ調ではなく、

働くそれでも美しい女性の生々しいリアルさが全面に押し出され、

存在感に圧倒された。

わたしはこの撮り方、洋画に近く、大変好感を持っている。

「大怪獣のあとしまつ」と対にしてみると、

似ているが違う点が強調されてより双方を楽しめるのでは、とも振り返る。



やはりこの作品の目的のひとつに、

当時熱狂していた製作陣らが自らの手で、現代の技術を駆使して焼き直したい、

焼き直せばどうなるのかというロマンの実現があると思える。

いわば、大人になったからこそ、その道のプロになったからこそできる贅沢な二次創作だ。

このアツさが作品の質に直結しており、当時を知らぬ世代へのいいバトンパスになっているのではと感じた。

ということで、全力で行う二次創作について思うところは、イエス、である。

悪ノリや、たんなる自己の欲望を満足させるためだけの中途半端なデキではなく、リスペクトするからこその手抜かりない、愛溢れる全力の二次創作は絶対にアリだと思っている。

というか世の中、気付いていないだけで作家は誰かに影響され、インスパイアを受け、出所はもうボケて記憶になかろうと、それら記憶と経験を元に自らの物語を紡ぎ出しているにすぎず、薄かろうと濃かろうと全てが何かの二次創作だと考えるからだ。

薄まり過ぎてすっかり忘れオリジナルだ、と思う無邪気。

明らかに意識しつつ覆い隠して世に出す、あざとさ。

隠さずモロ出し上等の、潔さ。

いずれにせよ尊い。

そうやって連綿と続く物語の川の一滴となり、束なってみな歴史と流れゆくのだ。

なんて。

物語が好きで書く、とはそういうことでもある、と思っている。

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