ナワリヌイ ー2022.6.22.

監督:ダニエル・ロアー



「最前で戦う人からのメッセージ」


事実は小説より奇なり、と言うが、

本作は事実は映画より奇なり、と伝えたい。

ロシアの反体制派、ナワリヌイ氏の

毒殺未遂から今日に至るまでの密着ドキュメンタリーが本作だ。


趣味でロシア語を学んでいる身として、ここ数年のロシアの動向は気になる所であり、

また学ぶと言っても独学という荒業を始めた理由が、ここにも公開している小説の登場人物にロシア人を出したためで、

人物描写の手掛かりにならないかと始めたあれやこれやのうちに知る事となったナワリヌイ氏も、毒殺未遂以前から注目する人物だった。

とはいえ作中の内容まで知るはずもなく、

まったくもって映画ではないのか、と疑うような展開にひたすら驚かされる。

事実かどうかは脇においておいても、それだけでも見る価値はあると言えよう。

そして一縷の狂いもない事実だとすれば、

今なお続く戦争ともどこか通じているようで、さもありなんと納得できた。


本作はナワリヌイ氏の主張を広めるための映画であるため

氏への批判的視点はほぼない。

ただそうしてヒーロー的に記録されているとしても

相手の大きさを思えば個人でこれだけ立ち回れるのか、

しかも清々しいほど軽やかなのだから尊敬の念しかない。

そしてなぜ映画として残す必要があったのかを振り返ったとき、

ナワリヌイ氏の諦めない情熱と、だからこその苦難で胸がいっぱいになった。

これはロシア国内の出来事だが、

最後の氏からのメッセージに他人事ではないものを感じる。

まさに今、起きている事。

善悪は置いて置いて、「知る」ためにも見るべし良作だった。


また、共に戦うチームと家族も、強くクレバーでたまらんのだな。



ヒーロー像というものも色々なパターンがある。

たった一人にとってのヒーロー、特定のコミュニティーにとってのヒーロー。悪のヒーロ、正義のヒーロー。よく知られているからこそのヒーロー、無名のヒーロー。

死んでヒーローになる者もいる。

ヒーローは行動と引き換えになるもののように感じているが、そう思うとひとつ、価値観の表れと考えていいように思う。簡単に言ってしまえば「正義」とくくられた漠然とした価値だが、選に挙げた幾つもの例のように、ヒーローのあり方によって「正義」もあまた顔を持つことが見て取れる。

果たしてヒーローを登場させようとした時、何を「正義」とくくり、ヒーローとして表すのか。

悪を倒すだけにあらず。

人を助けるだけにあらず。

皆が憧れるだけにあらず。

そうして削り落として行ったところに日の当たらない、だからこそ描くべき「正義」やドラマがあるのではないかと考える。

そこまで掘れば、誰ともかぶらないだろうし。

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