冒頭を読めば、これから語られる物語が切ないものであることを想像できるでしょう。これは、くらげになりたいと願う少女と、彼女と友達になった少年少女たちの、切なくも瑞々しさが感じられる物語です。
情景描写が丁寧で、自身がその場で彼らと共にいるような感覚を味わえました。自然と光景が目に浮かぶのです。その世界が立てた音ひとつで、自分の中にある懐かしい頃に引き戻される感覚は、とても面白いものでした。
響が駅のホームで出逢う少女、海月。そんな彼女と友情を育んでいく響たち。
四人組の彼らが体験したかけがえのない時間を共有できたことは、とても感慨深いものでした。
彼らは純粋で、柔軟性があって、透明なキラキラしたものを持っている気がして、眩しい。特に恋をしている子って、切なくて可愛くて堪りませんね。
少女が選んだ選択、彼女を思う少年たちが抱く想い。
ひと夏の中で最大限に輝いた彼らの軌跡は、きっと私たちが前を向く道標の一つとなるでしょう。
目標もなく、ただ日々を過ごしている響とミステリアスな少女との出会い。
4人で育んでいく友情と恋心。悲しい出来事。少女の不思議な力。
たった、ひと夏の出来事なのです。
しかし、なんて濃くて大切な日々だったのだろうと思います。
物語は、読みやすくも美しい文章で綴られています。
4人が過ごすおばあさんの家や海や空の光景が鮮やかに脳内へと広がり、物語を彩っていきます。
読み進めていくうちに、様々な感情と出会うことになります。彼等と一緒に悩んでしまうこともあります。
それでも最後には、もう一度最初から読み返したくなってしまう。
落ち着いた空間で、ゆっくりと味わってほしい。そんな物語です。
眩しくなるほど甘酸っぱい青春小説です。
海月という重い荷を背負う女の子に、彼女を取り巻く魅力的な登場人物たちと、その眩しくなるほどの人間関係。
表現される心理描写は独特かつ繊細で、瞬く間に物語の中へと引き込まれてしまいました。
そして場面ごとに描かれる風景描写はどれも丁寧で、至る所で青春を想起させられます。
おばあちゃんの家や岬など、脳に刻まれるほど印象的です(笑)
くらげの生態説明から始まるプロローグ、物語は、散らかることなく綺麗にまとめられ、どうにも考えさせられる結末へと至り……。
万人が納得できる終わりではないと思うが、だからこそいつまでも余韻が残り続けます。
ぜひともおすすめしたい、素敵な小説です。