[5]家族
さて、鈴がこの古い家にやってきた日から半年後。
家のなかではばたばたと荷物を片付ける青年たちふたりの姿があり、鈴はいったい何事かと眼を丸くして箪笥の上に避難していた。青年たち――
あれから本当に茶飲み友達になり、私はしょっちゅう家にやってくるようになった彼らとすっかり仲良くなった。
そしてあるとき、困りきった顔をしている彼らに話を聞いた――老朽化したアパートを建て替えたいので引っ越しを考えてほしいと、大家に云われたとのことだった。新築したアパートには敷金もなしで優先的に入居できるそうなのだが、工事のあいだ住むところは探さなければいけない。いくつか物件の紹介はしてもらったのだが、友人同士のルームシェアを許可していないところばかりで、途方に暮れていたらしい。
男女であれば、夫婦でなくても一緒に暮らしていることをとやかく云われることなど滅多にないのに、理不尽なことだ。気の毒に思った私は、こんな古い家でもしよかったら、部屋なら空いているよと云った。
嘗ては家族七人で住んでいたこともある、広さだけが取り柄の家だ。私は書斎と居間、寝室にしている六畳の和室しか使っておらず、空いている部屋はいくつもある。幸い風呂や洗面所とキッチンなど、水回りは一度リフォームしているから綺麗だし、いいところがみつかるまでの間だけでも使ってくれていい。その提案に、彼らは即断即決で乗ってきた。
そして、同性カップルのふたりと、ずっとクローゼットで生きてきた
特に生活が変わったわけでもない。変わったことといえば、朝飲むコーヒーを淹れてくれるのが倫瑠になり、一緒に朝食を食べたあと行ってらっしゃいと見送る相手ができたことと、執筆のお供にはコーヒーではなく、茶葉入れと茶漉しのついた水筒を並べ、淹れたてのダージリンを飲むようになったことくらいだろうか。
夕食は彰仁も倫瑠も仕事を終えて帰宅する時刻がばらばらなので、それぞれが買ってきたり作ったり、鍋や冷蔵庫に残っていたものを好きに食べたりと、特に取り決めもなく適当にやっている。そういえば、今までひとりではあまり食べなかったメニューも少し増えたかもしれない――彰仁が得意な手作り餃子とか、倫瑠の作る、懐かしい家庭の匂いがする、野菜がごろごろ入ったカレーとか。
そして鈴は、広い家でのんびり自由に過ごしている。私がデスクに向かっているときはたいてい縁側の、私から見えるところで寝ている。ぽかぽかと陽の当たる場所に敷いた座布団は、もう完全に鈴のものだ。
このまま独り、寂しく死んでいくのだと思っていた。叶わぬ想いに身を焦がしたあの青春の日々を、誰にも語ることなどないと思っていた。「鈴」という名前を、こんなに数えきれないほど呼ぶ日が来るなんて、想像もしたことはなかった。
何度となく夢みた、小説のなかに綴った理想とは少し違うけれど――
私は今、大切な家族と一緒に暮らし、幸せに過ごしている。
𝖠𝖿𝗍𝖾𝗋 𝗍𝗁𝖾 𝖣𝗋𝖾𝖺𝗆 𝖧𝖺𝗌 𝖦𝗈𝗇𝖾 -𝖩𝗎𝗌𝗍 𝖬𝗒 𝖨𝗆𝖺𝗀𝗂𝗇𝖺𝗍𝗂𝗈𝗇- [𝖲𝗂𝗇𝗀𝗅𝖾 𝖼𝗎𝗍 𝗏𝖾𝗋𝗌𝗂𝗈𝗇]
© 𝟤𝟢𝟤𝟤 𝖪𝖠𝖱𝖠𝖲𝖴𝖬𝖠 𝖢𝗁𝗂𝗓𝗎𝗋𝗎
過ぎ去りし夢のあとで -Just My Imagination- [Single cut version] 烏丸千弦 @karasumachizuru
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