僅か二千字程度で「切ない」という感情を表現しきった……まさに模範的傑作と言えるでしょう。正直、これを読むまでは私自身「切なさ」という想いを正しく理解できていなかったのではないかと思い知らされました。
例えば『マッチ売りの少女』という童話がありますね。
あの話は「切ない」お話なのでしょうか?
名作であることは間違いないし、悲劇的結末ではあるけれど、日本語の「切なさ」にベストマッチするかといえば少々疑問が残るのではないでしょうか? 少女の未来が奪われてしまったことへの怒り、切なさよりもそんな義憤が上回るのでは?
この短編を読んで判りました。不幸、はたまた悲劇という宝石で仰々しく飾り立てた物語はあまり「切なさ」に相応しくはないのだと。
「切ない」とは。
個人ではどうにもならない大きな痛みを前にして、諦観と共にそれを受け入れること。そして、人生のとある瞬間に「それ」を振り返って思い出すこと。
切なさという感情を呼び起こしたければ、悲劇は過ぎ去った美しき思い出でなければいけません。現在進行形では駄目なのです。可哀想と切ないは違うのだから。
現在進行形で流れる涙と、過去を思い出して流す涙はまったく別ものだから。
それを簡潔に教えてくれたこの作品こそ、入賞に相応しい。
これが最も企画の主旨に合った一作。
私はそう確信しています。