第12話

 いつも廊下ですれ違う時、目が合う男の子がいた。

 ちっちゃくて、大人しそうな少年。

 気にしていたわけじゃないけど、ばったり会うことが多くて、不思議に思っていた。


 中学二年生になって、新クラスで席に座ろうとしたら、隣の席にその男の子!

 

 彼は私をジッと見つめてきたので、思わず「よろしくね」と声が出た。

 多分、私がすごいびっくりしていることに気づいていないと思う。


 美術の時間、隣同士の似顔絵を描くことになった。でも絵を描くのはすごい苦手。

 彼のほうを見ると、まるで私を見透かすかのように、まっすぐな視線を向けていた。

 その真剣なまなざしが何を意味するのか、わからないまま、お互いを見つめ合った。


 でも彼から渡された似顔絵を見たとき、わかったの。

 あなたが私に伝えたかったこと、私へのすべての想い、慈しみ、愛。

 感動した、涙が出そうだった、でも照れ隠しで、ごまかしてみた。

「かわいい! 私こんなにかわいくないよ。でも、ありがとう」


 ——ここで僕は今開発中の新製品を取り出し、右手で握った。はしだ。


 記憶データは視聴覚など五感だけでなく、その時の感情も記録されている。

 この箸は、その時の情景に介入することができるアクセスデバイス……

 スイッチを入れると、箸は白く光り出した。


 あの時、言えなかった言葉をどうしても彼女に伝えたい。


 僕はその箸で、もう一度そばをすすった。

 箸から放たれる白い光が、僕の視界を覆いつくす。


 視界の奥からやがて見えてくる、学校の下駄箱……

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