第5話

 ――ピンポーン――

「いらっしゃいませ」


 コンビニに入ると、辺りを見回し、目的のコーナーへまっすぐ向かった。

 棚の前に立ち、ずらりと並んだタイムヌードルの列を舐めるように観察する。


 人差し指を立て、ひとつずつ確認…… 

「夢野遥、夢野遥っと。あれ? ない? ないぞ!」


 急いで会計レジに向かい、コンビニの店員さんを問いただした。


「あの……夢野遥がないんですけど?」

「あ、あれですか? 午前中に入荷されて、あっという間に売り切れました」

「昼入荷じゃなかったんですか?」

「いや、そこまでこっちでは管理してないから」

「この後の入荷予定は……」

「もうないですね、諦めてください」


 がっくりと肩を落とした。

 店員から冷ややかな視線を向けられた。他にも同じような客がいたのだろう。

 しかし、違うんだ……僕にとってそれはとても大切なものなんだ!


 意気消沈して研究室に戻ると、他のスタッフ達が昼食から戻ってきていた。


「霧野さん、どうしたんですか? 今にも死にそうな顔してますけど」

「ん? ああ、いや何でもない、大丈夫」

「明日は新製品の社内プレゼンでしょう? 検証作業のほうは終わっているんですか?」


「いや、まだできていない……対象となる商品が手に入らなかった」

「え? タイムヌードルなら、なんでもいいじゃないですか。社内の在庫いくつかピックアップしてきましょうか?」


「これだけはだめなんだ、この日のために開発したような製品だから」

「まあ、明日にはなんとか間に合わせてくださいよ」

 しかたがない……諦めて、他のタイムヌードルで試してみるか。

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