第13話

「あ、霧野くん」

 下校時間、下駄箱の前に向かうと、ばったり霧野君に出会った。

「あ、あ、桂木さん!」 

 随分と慌てているみたい。

 似顔絵のお礼も言いたかったし、勇気を出して誘ってみた。


「よかったら……一緒に帰らない?」

 声が震える、だって男の子に「一緒に帰ろう」なんて言うの初めてだし……

 こんなところ見られたら、周りからどう思われるだろう?

 しばらく彼は考え込んでいるようだった。

 あ、やっぱり引いちゃったよね、恥ずかしい、どうしよう。


「うん……ありがとう、僕も誘いたかったんだ」


 思いもよらぬ返事に、私は頭に血が昇るのを感じた。

 うれしいけど照れる。でも胸が苦しくなる。

 二人で並んで校門を出た。帰りの方向は途中まで一緒なのかな?


「家はこっちでいいの?」

「桂木さんの家まで、送っていくよ」

「え? そんな大変だからいいよ」

「僕が……そうしたいんだ」


 それがどういう意味なのか、私にはよくわからない。

 でも何か特別な意識を感じる。ドキドキするような、ワクワクするような。

 公園の前まで来ると、彼は急に立ち止まった。


「どうしたの?」

 しばらく俯いていた彼はいきなり顔を上げ、私に語りかけてきた。

「君にずっと伝えたかったことがあるんだ。前は言えなかった、だから今言わせてほしい」

 前っていつのことだろう? 何が言いたかったのか、想像もつかない。

「ずっと前から……君が好きだった」

 突然の彼の告白に、私は気が動転した。なんて答えればいいの?

「え、あの、えー」 

 私は赤くなるのを隠すために、両手で顔を覆った。

 自分の気持ち、それを伝えないといけないということはなんとなくわかる。

 でも自分の気持ちって、どうなの? うれしい? じゃあ、なんて伝える?


「うれしいです、えっと私もあなたのこと……好きよ」

「ありがとう、それが聞けてよかった。これで思い残すことはない」

 その後は二人で並んで、ゆっくりと歩いた。

 お互い何も話さないけど、幸せな気持ちを二人で分かち合っているのを感じていた。

 彼が左手を差し伸べてきたので、そっと右手を添えた。


 いつも見慣れた夕焼けが、今日は赤く染まった私の頬のように、ほのかに暖かかく、優しかった。

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