第14話

 僕は余韻を楽しむように、スープをすすっていた。最後の湯気が夜空に消えた。


「これでよかった……あの月のもとで彼女と結ばれることができた」 

 空の浮かぶ満月を眺めながら、一人呟いていた。


「現在」はやり直せないが、「過去」はやり直せる。

「過去」にあった記憶を書き変えることができる。

 これが明日プレゼンする予定の「フューチャースティック」のコンセプトだ。


 僕のように過去にああすればよかった、こうしておけばよかったというトラウマを抱えたまま、生きていく人も多いと思う。

 そんな人達にひと時の安らぎと、味わいを提供したいと考えていた。


「これで僕も明日から前を向いて、歩いていけるな」


 月に投げキッスをして、意気揚々と屋上のドアを開け、エレベーターを下り、自分の部屋へと向かった。

 部屋の前まで来ると、威勢よく玄関ドアを開けた。


「あら、おかえりなさい」

「え、か、桂木さん?」

「どうしたの? いきなり苗字で呼ぶなんて」

「え、あ、ああ、ただいま……彩子?」

「晩御飯、作っておいたけど……お風呂、先に入っちゃう?」


 僕は椅子に腰かけると、彩子をじっと見つめた。


「どうしたの?」

「彩子、ずっと前から……君が好きだった、愛している」

「え? 何々? どうしたの今さら。昔の告白思い出すじゃない、恥ずかしい」

「言いたい事を、言える時に……言っておきたかった」



 あなたも一度、フューチャースティック試してみませんか?

 僕からプレゼントしますよ。

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