第11話

 手紙にはところどころ、にじんだ箇所があった。

 大切な手紙ではあったが、僕はさらに濡らしてしまい、文字を読みづらくした。

 箱の中にあったタイムヌードルを取り出した。

 パッケージに記されたタイトルは、僕が死ぬほど欲しかった、あの商品名だった。


 夢野遥「思い出シリーズ 初恋編」


「悪いけど、これから新製品の検証がしたいから、早退する」

「タイムヌードルは、どうするんですか?」

「きっといい結果が出せる商品が手に入った」


 夕暮れ時に研究所を出て、地下鉄を乗り継ぎ、自宅マンションに着く頃には、辺りはもう暗くなっていた。

 部屋のロックを解除して、ダイニングに向かうと、リモートタイマーで設定した電子ポットの湯がすでに沸騰していた。

 僕は鞄の中から、タイムヌードルを取り出すと、フタを開き、お湯をやさしく丁寧に注ぎ込んだ。

 カップを支える手に伝わる熱が、まるで彼女のぬくもりのように感じた。

 そのまま、マンションの屋上に向かう。今日は雲がなく、空が透き通って見える。

 ほのかに光る月が、ただひとつ空に浮かんでいた。


「ちょうど三分だな」

 タイムヌードルのフタを開ける。

 カップから沸き立つのは、カツオダシの効いた醤油の甘い香り。

 付属のビニールパックを開封し、レトルトタイプの生玉子をそばの上に落とした。


 月にある彼女の記憶に想いを馳せながら、月見そばをすすった。

 やがて広がる彼女の思い出の情景……

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