第7話 戦い

7.戦い × 時間


「嫌~ッ!」

「こっち来ないでポ~ッ!」

 クワンとクルックが逃げ回っている。鬼と出遭ったのだけれど、今度の鬼は強力な魔法をつかう。水を弾丸のように放ち、離れていても関係なく攻撃するので、クワンもクルックも右往左往して逃げるばかりだ。

 その隙に、ボクの盗人スキルで鬼の背後に、気づかれないよう近づいた。そのまま後ろからとびかかり、首にしがみついて、足はお腹にフックする。

 後ろから抱き着かれ、鬼も慌ててボクを引き剥がしにかかる。ただ、自分と密着した相手を引き剥がすような魔法は、どうやら持ち得ていないようだ。

 中学生ぐらいの女の子に、後ろから抱き着いているのだから、かなりの変態に見えるだろう。でも、少しでも体が離れれば、魔法攻撃を食らうのはボクであり、必死でしがみつく。

 鬼の注意がボクに向くので、その隙にキキリが正面から近づき、鬼の鳩尾に一撃を入れた。そのまま鬼は意識を失った……。


 とにかく、このパーティーは初心者ばかりで戦闘力に期待できない。だから鬼と出遭っても、不意打ちぐらいしか倒す術がない。これは昨日から練っていた作戦でもあり、クワンとクルックを囮に、ボクが背後から近づき、トドメは冒険者としての経験があるキキリに任せる。

 そういう作戦を立てていたのだ。

「ひどいですよ、ご主人……。捨て駒にするつもりだったよね?」

 クワンもぼろぼろになりながら近づいてくる。クルックも同様だ。

「経験値が上がっただろ? 接近戦をするボクらの方が何倍も危ないんだから、文句をいわない」

「その子が鬼ポ? 随分幼いけれど、エッチするポ?」

「否……。こう見えても、まだ生まれて間もない。服を脱がせてあげてくれ」

 鬼は直垂姿で、この鬼の袴は青。だから青鬼。露わになった上半身の胸はやや盛り上がり、下半身のパンツは穿かせたまま。ボクは後ろから抱きかかえる形で、意識を失った頭をボクの左肩に乗せるようにした。

 意識をうしなって、半開きになった口に、そっと唇を重ねる。手は盛り上がりかけた胸を優しく包むように握りながら、足は彼女の太ももの内側を優しくこすり上げるようにする。

「うわッ!」

「何だか……すごいポ」

 クワンも、クルックも初めてみるプレイに、驚いて真っ赤な顔で、じっと見つめてくる。

「あんたたち、こういうときは見ないのがしきたりよ」

 キキリはそう言いながらも、ボクのやり方に目を丸くして凝視していた。


 少しずつ強さを増していく。彼女の口の中に舌を入れ、その中をまさぐるようにして、まだだらんとしている舌に絡ませる。胸も全体を揉む形から、その先端を指先にからめるようにして、少し強くつまむ。

 両足も速度を上げて、彼女の内股に強く刺激を与えていく。

 すると、彼女も意識をとりもどした。でも、泣き叫ぶこともなく、むしろ恍惚とした表情を浮かべ、みずから手を伸ばしてボクの頭を抱えるようにし、口が離れないようにしてきた。

 こうなれば最終段階。手を下着の中にさしこみ、彼女の大切な部分へと指をそわせ、そのまま彼女が感じる部分、奥へと辿らせる。

「ん……、ん……、ん……んぅぅぅぅぅぅんッ!」

 鬼の少女は、ぐっと背を逸らせると、その姿が融けるようにして消えた……。

「へ、へぇ~……、やるじゃない」

 キキリも感心ともつかない感想をもらす。

 満足し、幸福感を与えられればよいので、必ずしも本番をする必要はない。青鬼の少女は、それほど人に対する敵意が感じられなかったので、気持ちいいことをしてあげれば満足するのでは? と考え、実践した。

 それが彼女には刺さったらしい。勿論、本番ではなく……。


「でも、あのクラスの鬼でも、この程度ポ……」

 クルックは落胆したように、手に入れた罔極を持ち上げてみせた。

「それは仕方ないわよ。多分、誕生して数日の鬼だったんでしょう」

 罔極は、魔力による影響が大きいとされるけれど、年数を経ていると、大きく硬くなり、価値が上がることが知られていた。

 大きさはそこそこでも、石のようにみえても、青鬼の少女からドロップした罔極はぐにゃぐにゃと柔らかく、これでは価値が低くなってしまう。

「今日は二体の鬼をみつけられただけでも上出来だよ」

 ボクはそう言ったけれど、不自然さも感じていた。冒険をしても、鬼をみつけられるのは三日に一体をみつけられればいい方、とされた。それこそ一ヶ月、みつけられないことも……。幼く、まだ若い鬼だったとはいえ、それが一日に二体も……なんて喜んでいいのか?

 そのとき、クワンが「何かくるよ!」と、緊張した声を挙げた。ただ、その声が響きわたる前に、空気が変わった……。空間が固まっていた。

 ボクも驚くけれど、ボク以外の周りの時間が止まっていた。

「おや? このヨーンドに嵌って、動ける者がいるとは……」

 歩いて近づいてくる少女を見かけたとき、ボクはすぐに気づいた。彼女がサワラだ、と……。


 周りの時間が止まっているので、彼女だけが動く姿が奇異にみえる。ただ、それはボクも同じだろう。どうして彼女がかけたこの時間停止の魔法にボクだけがかかっていないのか?

 近づく鬼の少女の袴は紫。角は五本を数える。見た目は幼いけれど、人間の年齢でみれば六百歳という経験値と、膨大な魔力をもつ。でも、それだけ長く生きていたとて、周りに気づかれずに今まできたのはこうして時間停止の魔法をもっているから、か……。

 この状態ではリダウにも連絡できない。ボク一人で対応するしかない。

「ヨーンド……、それがこの空間の名前?」

「あくび、よ」

 サワラは不機嫌そうに応じる。彼女にとって周りが止まっているこの空間は、あくびがでるほど退屈、という意味か……?

「キミは、サワラ?」

「ええ、そう。あなたは何者?」

「P太郎……。冒険者だよ」

 冒険者、と明かしても相手は警戒するどころか、侮るような表情となった。それは余裕の為せる業だろう。

「何であなたが、ヨーンドに入っても動けるのか? よく分からないけれど、これだけは言っておくわ」

 そういって、ボクに近づいてくる。その魔力量は桁違いで、格の違いだって肌で感じるぐらいだ。

 かけだしの冒険者なんて、サワラにとってみればものの数ですらない。

「ふ~ん……。確かに、ちがう匂いは感じるわね。ま、頑張って私と並び立てるようになりなさい。ふふふ……」

 サワラは歩き去っていく。彼女が遠ざかると、ボクの周りの時間が少しずつうごきはじめた。

 他のメンバーは時間が止まったことにすら気づいておらず、ボクが緊張で崩れ落ちるのを、不思議そうに見つめるばかりだった。


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