第6話 エルフ
6.エルフ × 初戦
「ボクは、両性具有のエルフだよ」
ボクの視線に気づいたのか? 相手はそういって笑う。胸に圧倒されて見逃していたけれど、髪のサイドからは尖った耳が見える。
「エルフって、両性具有なんですか?」
「否、そうではないよ。ボクが偶々、こういう体で生まれただけさ」
お風呂は男女で別れているけれど、彼……彼女? のような場合、どちらに入ってもよいことになる。むしろ、陰部が男性であれば、こちらに入るのが自然だろう。ボクとしては目のやり場に困るが、女性風呂に入ったらヤリ場になってしまう。
「ボクたちしか、今日は宿泊者がいない、と聞いていたもので……」
「あぁ、ボクたちは向こうの宿に泊まっているのさ。でも、部屋ごとにお風呂があるタイプでね。順番を待っていると遅くなりそうだから、ボクはこちらのお風呂を借りにきたのさ」
大体の事情は分かったけれど、むしろあなたが個室のお風呂をつかうべきでは? とも思う。
「冒険者ですか?」
「町で、宿に泊まるような者は皆そうだろ? キミも冒険者だね」
「はい。まだなりたてホヤホヤですが……」
エルフだから、だろうか? 見た目より年齢も上、と感じさせる落ち着きと、鷹揚さを相手から感じる。彼はふたたび湯船に体をしずめた。ただ、体を隠すつもりはないらしく、男性の象徴が湯に隠れてみえなくなると、美乳と整った美顔が強調され、本人は鷹揚でも、ボクにとっては懊悩だった。
「ボクはリダウ。君は?」
「ボクはP太郎です」
「P……。太郎ということは、ホホの国の人だね」
今、ここがホホの国であり、彼らは恐らくちがう国からきた冒険者だ。ナゼなら、ホホの国には本来、エルフがいないからである。
「リダウさんは、この国に何をしに?」
「鬼退治だよ。決まっているだろ」
「でも、他の国だって鬼は現れていますよね?」
リダウはニヤッと笑った。
「ここ最近、この国が騒がしくなっているからね。一稼ぎ……否、一獲千金を狙ってやってきたのさ」
周りの国からは、そう見えているのだろうか? 生憎と、そんな話は聞いたこともないけれど……。
「この町に来たってことは、キミも狙っているんだろ? サワラの鬼退治に……」
サワラ――。ギルドに行ったとき、その噂は聞いていた。鬼は長く生きると、それこそ経験を積み、また成長することによって強力になっていく。サワラも、そんな長命となった鬼であり、超強力に成長していた。
それを退治しにきた、というぐらいだから、リダウたちは実力を兼ね備えたチームなのだろう。
両性具有の彼は、それこそ女性と見間違えるほどの美形であり、そこに鬼の少女を満足させるものも持つ。
こういう冒険者が周りからも認められ、のし上がっていくのだろう……と思い知らされた気分だ。
「ボクらはまだまだ駆けだしなので、サワラと会っても逃げるだけです」
「そいつは残念だ……。じゃあ、もしキミたちが先に見つけたら、ボクたちに連絡をくれよ」
この世界では、携帯電話のような仕組みがある。勿論、電波ではなく、魔法で通信を行うものだ。アイフォムという木の枝に登録しておくと、相手の魔力を感知したときに通信することができる。魔力が高いと、それこそ遠くまで通信できる。ボクぐらいだとこの町の近くでしか通信できないけれど、サワラをみつけたときに、助っ人を呼べるので、願ったり叶ったりだった。
「それで連絡先を交換したの? バカなんじゃない?」
キキリは辛辣だ。
「ベテラン冒険者に助けてもらえるんだよ」
「サワラは確かにでかい相手だけれど、他人が討伐するのを、指を咥えてみているつもり?」
この世界では、冒険者はほとんど協力ということをしない。それは鬼を退治するのに、幸福感を与える必要があり、それを誰が与えるか? によって報酬でもめることになるからだ。
「クワンはどう?」
「お風呂で、会話するのが聞こえていたから、ご主人はそういう趣味の人かと……」
露天風呂だったので、女性風呂と隣り合っており、会話が聞こえていたのだろう。この辺りはケモノ族の耳のよさだ。
「何の話? 別に、ボクは独り言をつぶやきながらお風呂に入るタイプじゃない。強そうな鬼と出遭ったときの話だよ」
「鬼に幸せになってもらえれば退治できるのなら、自分たちでもできるのでは? 強くても……」
「サワラってそんなに強いポ?」
「通常の鬼は、数ヶ月で退治されるのが一般的さ。でも、サワラは少なく見積もっても三年。この町をほぼ壊滅させた……と言われるアワサカの涙も、サワラの仕業とされているから、そうなると五年は生きていることになる」
「五年は長いポ?」
これにはキキリが応じた。
「鬼の一ヶ月は、私たちの十年。容姿は何年経ってもほとんど変わらないけれど、五年も生きていたら、六百歳分の経験をもつ」
あくまで人間と比べたときの年齢だけれど、それがどういう意味をもつのか? みんなにも分かったようだ。
勿論、初心者ぞろいのこのパーティーで、サワラと戦おうなどという大それた挑戦などできない。
翌日、この町から離れた森を歩き、鬼をさがす。町の近くだと、ギルドの管轄圏でもあり、ボクらに鬼退治はまわってこない。だから離れたところに行くしかないのだけれど、こういうときのために、犬族をパーティーに参加させた。クワンは匂いで鬼をさがすことができる。
通常は、鬼を回避するためにその匂いを覚えるのだけれど、冒険者ではその逆で探す方につかえるのだ。
運よく、鬼がみつかった。でも、幼稚園児ぐらいの幼女であり、戦うまでもなく、ちょっとお話をして、頭を撫でてあげたら満足して消えた。
罔極は手に入ったけれど、かなり小さい。でも、こうして経験値とお金を稼いでいくことも大切だ。
「冒険って、こんなもの? 何だ、つまんない」
クワンもクルックも、戦うこともなく終わった初戦に、何だか拍子抜けした様子である。
「鬼といってもピンキリよ。多分、あそこにある鹿の遺骸。あの悲惨な死によって生まれた子だったのでしょう。崖崩れで、一瞬にして奪われた命。その理不尽さによって鬼が誕生した。だから、慰めてくれる人がいれば、それで満足した……。
でも、それこそ強い鬼は、誕生した瞬間に強力な魔法をつかってくるほど厄介よ。
私は、命を張るような冒険は御免蒙るって感じだから、この程度をちゃっちゃと片づけるので十分だけど……」
キキリは三ヶ月だけ、という契約でもあり、楽ならその方がよいのだろう。
ただ、それだけでは終わらない事態が、すぐに訪れることになる。
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