第5話 宿屋

5.宿屋 × 風呂


 この世界で冒険者はギルドから仕事をうけるか、自ら鬼を探して退治するのが一般的だ。

 ネガティブな感情、出来事によって鬼が誕生する。その負のエネルギーは強大で、鬼退治は命がけだ。だからギルドは鬼が発生しないように町の治安を守ったり、犯罪を取り締まったりする。つまり、国が雇う兵士は軍隊、警察の役割をするのがギルドとなる。

 一般的に、冒険者はギルドから仕事をうけて冒険し、レベルを上げ、お金を稼ぎ、それで鬼退治という外仕事へとステップアップする。鬼を退治すると、『罔極』という結晶石をドロップするので、それを得て冒険者は稼ぎとするのだ。

 罔極はギルドに売ることができるし、闇取引にまわすこともできる。装備に組みこんだり、自らの魔法の補助にしたり、罔極の使い道は様々で、その価値は高く、よい取引になるからだ。

 ギルドに売れば、レベルがさらに上がって難しい冒険の依頼をうけることができるようになる。むしろそれが煩わしい、より高く買い取って欲しい場合、闇取引を利用する形だ。

 ボクがケモノ族の村で、無碍に扱われたのも、そうしたレベル上げをして外仕事をする手順を省いた面も大きい。


「本当に、鬼退治できるの?」

 キキリは容赦なく、胡散臭そうにそう尋ねてきた。

「大丈夫だよ……。多分」

「ちまちま小鬼を退治していけばいいんじゃない?」

「クワンは何も分かっていないわね。確かに、発生した当初の鬼は力も弱く、経験もないので倒しやすい、といわれるけれど、私たちなんて一撃で倒されちゃうわよ」

「そんなに強いポ?」

「戦って倒す必要はないんだけどね。要するに、負のエネルギーでできた鬼を、正のエネルギーに変えてあげる。幸せを感じるようになれば、自然と鬼は消滅するのよ」

「幸せ……お金持ちになる、とか?」

「クワンは幸せね。どの鬼も貧乏を嫌気してなったわけじゃない。一番、簡単なのは少女の姿をとる鬼と、エッチして気持ちよくさせるのよ」

「え~ッ⁉ 何それ?」

「知らなかったの? 性的興奮は、すべての感情を凌駕して幸福感を与える。鬼を退治するもっともシンプルで、確実なやり方よ」

 キキリはじとっとした目をボクに向けてきた。

「あなた、大丈夫? 私の裸をじっとみていたけど、まさか童貞じゃ……」

 猿族は羞恥心が低い傾向もあるが、裸をみせたのは彼女の側であり、据え膳ならぬ見ない損をしないよう、目に焼き付けたのだが……。

 ただ、童貞を疑われているけれど、確かにその通りだ。ただし、それにはとある事情もあるのだけれど……。


 ボクは前の世界で、AV男優をしていた……といってもパーツモデル。AVのパーツモデル? というと不自然に聞こえるけれど、ボクは顔出しをせず、女優たちを気持ちよくさせるのが仕事だった。

 AV男優といっても下手な人もいるし、撮影の日に体調が悪いこともあるし、女優との相性だってある。カメラが回る前に、ボクが女優を気持ちよくさせてそのいい表情を撮り、撮影のときも気分を高揚させて……というのがボクの役回りだった。

 そもそもお金に困って、撮影助手として事務所に入ったのが始まりだ。女性の裸をみられるし、いい仕事……と思ったのは最初だけ。あくまで仕事だし、何より現場はぎすぎすしていて、それどころではない。しかも、ボクは女性の裸をみても、その胸や陰部にふれることができても、股間をオッ立てていたら仕事にはならない。あくまで撮影助手……が、ボクの役回りであり、パンツを濡らしているわけにはいかないのだ。

 そう、ボクは女性を気持ちよくさせる上級者。かつ我慢のできる男だ。その能力を買われ、この異世界での鬼退治を依頼されて、転生したのである。

 ボクが、面倒なことをすっ飛ばして鬼退治をしたかったのは、鬼を退治する力をはじめからもつ……と自負するからなのだ。

 しかし、鬼に実力で勝って、倒してからでないとボクの特殊能力がつかえないのが誤算だった。さらにギルドにいって適性をみた際、ボクの適職は勇者か何か……と思っていた。だって女神に「異世界を救って」と言われたのだ。そのぐらいは優遇してもらっている……と。

 それが「シーフです♥」と、受付嬢から笑顔で言われて、すべての計算が狂ってしまった。

 シーフじゃ、鬼を倒せないじゃんッ! となって、慌ててメンバーを探しに行って集めたのが、この三人である。


「とりあえず、今日はここに泊まりましょう」

 キキリは町にある、大きな宿屋を指さす。

「四人だぞ。無理だ」

「何でよッ! そのぐらい、何とかしなさいよ、雇用主!」

「まだ鬼も退治していないうちに、無駄遣いをしていられないだろ? 節約していかないと……」

 安い宿へと泊まることにした。夜行列車のように、二段ベッドが左右に並ぶだけの小さな部屋に、四人で寝泊まりする形だ。

「うわ~い! ベッドだポ~ッ!」

 二段ベッドの上に、仰向けで寝転がると、クルックはそのまま気絶してしまう。

「仰向けで寝ると気を失うって分かっているのに、何で仰向けになっちゃうの? この子は……」

 キキリも呆れている。ドジっ子というより、完全に不注意、注意力散漫といった形だから、呆れるしかない。

「絶対に覗かないでよね! それに、変なことをするのも禁止だから」

 キキリは元々の敵愾心もあって、そう念には念を押してくる。

「私は覗かれるぐらい、別に構わないけど……」

 クワンのつぶやきに、キキリは目を怒らせて「ダメよ。そういうちょっとを赦すとすぐ男なんてつけあがるんだから!」と、ジェンダー意識の高い女性のようなことを言ってくる。

「と……、とにかく風呂に入ろう。眠るにしても、体をきれいにしてからの方がいいだろ?」

 ボクの提案に、キキリも異論はないようで、クルックを起こして四人でお風呂に向かうことにした。


 お風呂は共同で、勿論男女は別だ。

 今日はボクたちしか宿泊者はいない、と聞いていたので、男風呂はボクだけ……と思って、露天風呂になっている戸を開けると、そこに先客がいた。

「おや? 宿泊者かい?」

 湯煙で見えにくいけれど、その少し甲高い声……。目を凝らすと、金色の長い髪に美しい顔立ち。それって……。

 湯船から立ち上がると、その胸は美しく盛り上がっている。やっぱり……女性⁉

 どうして男風呂に? しかも、これまで多くの女性の胸をみてきたけれど、その中でもぴかいち、ただ大きいばかりでなく、美乳といって差し支えない、形容しがたい形状だ。

 でも、そのとき気づく。その下には男として見慣れたものがつくことに……。


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