第8話 報告

8.報告 × 寝姿


 町にもどってきた。二体の鬼を倒した罔極は、闇取引で売ることにした。闇、といっても、それはギルドを通さないというだけで、表立って看板をかかげているわけではないが、ふつうに買い取ってもらえる。闇で売れば、一週間は四人が楽に暮らせるお金になった。

 お腹いっぱい、食事がとれて、クワンもクルックも満足している。彼女たちは初めての冒険で、危険な思いもしたけれど、それだけの成果もあって、一先ずは冒険者になってよかった、と感じているようだ。

「あなた、本当に童貞?」

 ボクのテクを初めてみて、キキリも不思議なのだろう。でも、説明する気にはなれないし、女神からも「転生者であることは口外禁止」と言われている。ボクが前の世界でAV男優だった、なんて言っても理解はされないだろうし……。

 問題はサワラだ。これは他のメンバーにも語っていない。時間が止まって、その間にサワラと会っていた、なんて言っても誰にも信じてもらえないだろう。恐らく、あの時間停止は、彼女の周りでだけ起こっているのだ。要するに、自分に近づく者の時間を止めて、発見されないようにしている。森の中だから遠目にみられる心配もないし、全体の時間を止めるよりはよほど楽のはずだ。時間停止の開始、解除が緩やかだった点をみても、そういう憶測を強くする。

 五年も発見されず、生きてきた鬼にはそれなりの理由もある、ということ。

 問題は、リダウたちがどんなに強力なパーティーだろうと、近づくと自分の時間が停止してしまう相手となんて、勝負になるはずがない。

 つまり助けは呼べないし、呼んだところで意味がない。

 他のメンバーにも頼れないし、自分で何とかするしかなかった。


 その日もお風呂にいくと、そこにリダウがいた。上半身が女性で、下半身が男性という肢体と、エルフらしい美しい顔立ちでその裸をみるとどぎまぎしてしまう。直視は危険だ。

「今日もこちらのお風呂ですか?」

「サワラを探しているけれど、若い鬼が多いからね。体がべとべとになって……」

 なるほど、彼が相手をして、鬼を昇天させているのだ。

「鬼が多い理由があるんですか?」

「強力な鬼がいると、力のバランス、あらゆるものが歪むんだ。その結果、通常なら鬼化しないようなことまで、鬼になってしまう。サワラは鬼を束ねるような気がないようだけれど、それこそ誕生する鬼をまとめ上げ、人間を襲う強力な鬼もいるぐらいだよ」

 やはり、この辺りの鬼の増加は、サワラが原因らしい。

「でも、これだけ歩き回っても、サワラの気配が感じられないのだから、よほど優秀なシクルーデッドをつかえるみたいだね」

 シクルーデッド……隠棲だ。まさに時間を止める、なんて魔法は自分の身を隠すのに十分だろう。

「君も鬼をみつけたのかな?」

「二体ほど……」

「ほう? 退治したのかい?」

「はい」

 リダウは湯船から上がると、興味深そうな表情で近づいてくる。ボクもその女性らしい姿態に思わず後ずさりするけれど、彼の眼はボクの下へと向けられ、タオルすら剥ぎとらんばかりだ。

「へぇ~……。君が二体の鬼を、ねぇ……」

 ただ、彼はにこっと笑った。それが嘲りか、評価かは判断もつきかねるけれど、こういった。

「ボクの裸をみて、反応しなかった男の人は初めてだよ」


 部屋にもどった。リダウとの遭遇は、色々と心臓に悪い。

 彼にとって、両性具有であることは卑屈になることではなく武器なのだ。男性からも、女性からも満足されるなんて、冒険者としては最優秀だ。

 すでに他の三人は寝ていた。

 夜行列車のように、狭い部屋の両側にダブルベッドのような、据え付けのベッドがある。

 左の上はクルックだ。高い方が寝やすい、という本人の意向もあってそうなった。まるでつんのめって、顔から地面に倒れた……ようなダイブ姿勢で枕に顔をうずめ、うつ伏せで寝ている。

 背中には閉じているけれど翼もあって、手はやっぱりびっくりした女の子がよくみせる、体の脇でぎゅっと握る姿で眠っている。

 寝にくそう……。

 本人はすやすやと寝ているけれど……。

 右の上にはキキリが寝ている。彼女も村では木の上で暮らすので、上の方が落ち着くらしい。

 しかし横になるのではなく、壁の隅ですわるようにして、体を丸くして寝ている。手を体の中に隠して、顔も膝の間にうずめるようにする。

 寝姿なんて自由だけれど、とてもボクには熟睡できそうにない。それに、寝るときは薄着になるので、パンツが丸見えだ。布団をかけていた形跡もあるので、それで隠していたつもりなのだろうが、すわった状態なので滑り落ちたのだ。本人が目覚めたときに、恥ずかしく思わないように、そっと布団をかけておく。


 問題は左の下、ボクの隣で寝ているクワンだ。実は、猿族の村にいく前、人族の村で装備を整えたとき、一晩そこで泊まることになった。ツインの部屋は高いので、逡巡していると「いいよ、ベッドは一つで」と、あっさりクワンは受け入れた。

「変なことなんてしないでしょ?」と、あっけらかんとしているけれど、年頃の男女が同じベッドで寝る、ということに抵抗がないようだ。

 実際、ベッドは大きめで、二人で寝ても余裕はあったけれど、クワンはすぐに無防備に寝息を立てていた。

 あまりに緊張感がなくて、ボクも色々と考えるのがバカらしくなって、そのまま寝てしまった……のだが。

 寝相の悪さに辟易した。走っている夢をみているのか? 手足がバタバタと動いたり、それこそ寝返りを打つたびに、腕や足がボクにぶつかった。

 目覚めて、彼女の手足をどかすのだけれど、そのたびに彼女のあられもない姿をみることになる。

 寝相が悪いので、当然のように服も乱れていて、本人は気にしていないだろうけれど、胸がぽろりと……。

 キキリと同い年ぐらいだけれど、キキリはやや小さめ。比べるまでもなく、クワンは大きい。着やせするタイプなのか、魔法剣士という装備がそうみせるのか、普段はそう感じないだけに、いざ実物をみると余計に大きく感じてしまう。

 彼女はまったくそういうことは気にしていないのだし、ボクが意識するのもおかしいので、黙って彼女を避けて、布団をかけ直してあげるの。でもまた布団を蹴飛ばして、胸がみえる……のくり返しだ。

 この宿ではベッドが離れているので、叩き起こされる心配はなさそうだけれど、彼女の明け透けさは、ある意味で暴力でもあって、別の意味で眠れなくさせられそうだった。


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