開いた口が塞がらない
うちの学校は三年生に対してだいぶ甘いと思う。
勉強場所は提供するよ。聞きたいことがあったら自分で聞きに来てね(にっこり)…といった感じで、ほぼ自由なのである。
だから今の時期はテストとか提出物ちゃんと出せよで許される。
「おーいお前らそろそろ帰れよー」
男の先生が気だるそうな顔をして教室に入って来た。
我らが担任である
なんでも何人もの生徒を有名な大学に進学させたとか、ヤンキーを更生させて真人間にさせたとか、やれば出来るのにやらない教室とはまさに彼のことである。と全校生徒に言わしめた生きる怠惰な伝説である。
「先生が生徒帰らせてどうするんですか」
私が呆れたように言うと。
持っていたファイルで頭を軽く叩かれた。
「
絶対に本音は後者だ。
パチカス教師にため息をついて私は片付けをする。
疲れたのは事実だからだ。
「お、帰るか…お前は良くもまぁ毎日学校に来るよなぁ、年明けて別に行く義務なんてないのにさ知ってるだろ?うちの学校のいい加減っぷり」
それはもちろん知っているむしろそのいい加減が気に入って受験をしたのだから。
「今日は特別に仕事してやるか…で進路はどうなってるん?」
「知ってて聞いてるんですか…?一応県外に進学です!もうそろそろ本番なのに決まってないって言ったらどうするんですか…」
「その時はその時だろ、別にお前の人生だし」
中学の教師よりも何も言わなくて違和感があるような…まぁこれくらいがちょうど良いと思う。
「お前のことは一応理解してるよ?本心を言わないってことは」
痛いところを先生は突いてきた。
好きな人に対して私は好き以上の言葉を言っていない聞きたい事はあるのに私はそれを口に出して聞くことはしない。
そういうこともあるし学校だったら周りに意見を合わせて行動している。
「自分の思った通りに動くのは覚悟がいるからまぁ少しずつやれば良いんじゃない?」
優しく頭を撫でてくれる目の前の男が先生に見えた。
一応この人は先生だが忘れそうになる。
「先生って本当に先生なんですね」
「え?失礼すぎない?俺先生よ?」
「そうっすね」
「ソウッスネ?!…あーもう、とっとと帰って寝ろ!これは俺からの差し入れだっ!さっさとガキは帰れ!」
チョコレートを雑に私の手に乗せて彼は去っていった。
お優しい先生だな。
お腹が減ったらまずどこに行くかそれは決まっている自分の好きな人がいる人のお店だ。
私はその人以外の飲食店にお金を入れるつもりはない。
「そんなわけで
「どんなわけだ!…オムライス大盛りでだな…よく食べるなぁ…」
呆れているように見えるが私には何となくそれが嬉しいと思っているように見えた。
少し走ってここまで来たせいでお腹はすごく空いている。
今ならなんでも食べられる気がする…私フードファイター出来ます。という謎の自信が湧いてきた。
「はひゃほおさん」
「口に物入れてるのに喋んな待ってやるからちゃんと入れてからにしろ」
私は頷いて急いで口を動かして飲み込んだ。
「慌てて食べるなよ…俺は別に逃げないからさ」
「お仕事の邪魔はしたくないので」
「今店には俺とお前だけだ。気を使ってくれたのはありがたいけど、暇なんだわ」
私の食べていたお皿が空になったのを確認して彼はそれを持っていった。
そしてケーキを二つ持ってきて、ひとつは私の目の前にそしてもうひとつは隼人さん自身の前に置いて私と向かい合う席に座った。
私はそのお皿を彼の方に押した。
「これ頼んでないです」
「サービスだよサービス」
私は少し唸って観念してそれをいただくことにした。
今日はチーズケーキだ。
ここのケーキはしっとりしていてちょうどいい紅茶に合う甘さになっている。
私は美味しくて頬が緩んでだらしない顔になっていると思う。
「美味そうに食ってくれるから作りがいがあるよ」
「隼人さんのせいで私肥満体型になってしまう…」
「もうちょっと食べても良いと思うけどなぁ、細いくらいだよ」
ついついその言葉を聞いて自分に甘くなってしまいそうになるが、紅茶を飲んで私は正気に戻した。
「隼人さんに可愛いって言って貰えるように頑張らないといけませんからね!」
「十分可愛いと思うけど…あ」
私は目を見開いた。
隼人さんの言葉に開いた口が塞がらない。
しまったと思っているのか彼は目が泳いでいた。
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