不幸だと思っていたけどそんなことはなかった
いつも通り隼人さんのカフェで…と思ってるんるん気分で向かうと、そこには臨時休業という絶望を知らせる貼り紙が飾られていた。
私は膝から崩れ落ちる…ことはなかったけど悲しくはなった。
今日は何処で勉強しようかと考えているとカランとドアを開ける音がしてそこから隼人さんが申し訳なさそうな顔をして出てきた。
「悪いけど今日は休みになったんだ」
「今見ました…今日のところはこれで」
隼人さんの顔が見れたから良しとして帰ることにする。
「あー…ちょっと待て」
「珍しいですね隼人さんが私を呼び留めるなんて…はっ!もしかして私の事が好きとか言ってくれる系ですか?!」
私がふざけてそう言うと隼人さんは無表情で私の頭に手刀をお見舞いしてきた。
私は痛くて「ぬおぉぉぉ!」と叫んだ。
「何するんですか?!」
「それ俺のセリフだからな?」
ため息をついて私を見る彼の顔は相変わらず素敵で私はついつい見入ってしまう。
「お前のせいで話が逸れただろうが…帰るのか?」
私はそれに頷いた。
少しだけ彼の瞳が寂しそうに揺らいだのは幻覚なのだろうか。
「ここにいても迷惑になるので大人しく帰って家で勉強しようかなと」
「あのさ、少しだけやりたいことあるからその…その間だけならやっていっても構わない、けど」
どうしよう…ここで断っておくのが良いのだろうか。
あんまり甘えてやるのもとても申し訳ないし…。
「遠慮しておきます。毎回甘えちゃうと申し訳なく感じて…」
「いつもは遠慮しないのに…こういう時は断るのかよ」
ぼそっとそっぽを向いて呟く。
隼人さんからそんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。
予想外だった。
「じゃあ…ご迷惑にならないのなら…」
私が遠慮がちに言うと、嬉しそうに笑って隼人さんはお店に入れてくれた。
年上の人ってこんな反応するんだ…と思いながら私は席に着いた。
いつもならこの時間だといるお客さんはいない私と隼人さんの二人っきり…ドキドキするはずなのに一周回って無になった。
「悪いなお茶しか出せなくて」
「大丈夫です無理言ってお邪魔してるの私ですし」
今日は英語の気分なので辞書やら過去問を鞄から出す。
私の前の席に座ってノートを広げている。
それを少しだけ覗いてみるとギッシリとレシピが書かれていた。
その中には実際に隼人さんが作って提供しているものもある。
隼人さんは私がジーッと見ていることに気がついたのか、顔を上げて苦笑した。
「これ気になる?」
「まぁ…はい」
「見ても何も面白いことないけどな」
「面白い…とかではなく尊敬ですかね」
私の言葉に隼人さんは目をぱちくりとさせている。
「お前って時々真面目になるよな」
「なっ…!失礼ですよ!私だって真面目な時ありますもん!」
「嘘をつくな嘘を」
「隼人さんの意地悪!」
「はいはい分かったから手動かせよ」
言ってきたのはそっちからなのに、という言葉は言わずに私は問題を解くために手を動かす。
「お前黙ってれば真面目なのにな」
黙っていれば真面目なのになってどういうことですか?私はいつでも真面目ですけどー?!なんて言ってもまた先程と同じ感じになる気がしたので、何も言わないことにした。
集中力が切れてきて顔を上げると珍しいものが見れた。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠っている隼人さんの姿があった。
私の胸がキュウッと締め付けられる感覚がある。
これが尊いというものなのだろう。
起こすのも申し訳なくて私は静かに片付けをして鞄から休み時間に寝る時に愛用しているブランケットを取り出して掛けた。
「…ん」
彼が急に声を出すものだからビクリと大袈裟に私は肩を揺らした。
もう少しだけ寝顔をみたいという欲望を飲み込んで細心の注意を払って私は静かにメモを残してお店を出た。
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