例えこの恋の結末が悲しくても

 三時間くらい経っただろうか?私は目が痛くなって今日はこのくらいにしようと思って片付けをすることにした。

「ん?終わりか?」

「そうですね今日はこのくらいにぃ゛?!」

 私が顔を上げるとそこには神がいた。

 神という表現は大げさかもしれない…そんなことはないな。

 メガネをかけた神…隼人さんがそこにいた。

 読書をしていたからだろう片手には本を持っている。

「ん?どうした?やばい声出たけど…」

「隼人さんが悪いです!反則です?!」

「なんで急に怒るんだよ?!」

「自分の胸に聞いてみてください!」

「え?俺何も悪いことしてない…え?」

 珍しく戸惑っている隼人さんの姿に悶えそうになるけどここから今すぐ離れないと私がキュン死にするという生命の危機を本能が感じたのかレジに向かった。

「お会計お願いします?!」

「お、おう?」

 私は千円札を隼人さんに渡した。

「お釣りは結構です!後はチップです!」

「いやここ日本!返すから!」

「隼人さんのご尊顔を見れたことへの感謝です!」

 自分でも何を言っているか分からなくなってきたけど感謝しているのは事実なので大丈夫だ。

 こうして私は元バドミントン部の足を活かして過去最高速度を出して家に帰った。


「痛いぃ…」

「アホでしょ、ねぇ?あんた馬鹿でしょ?」

「酷いよ…ぴえん」

 朝から両足が筋肉痛な私に冷ややかな視線を送って罵ってくるのは、大親友の春日部棗かすかべなつめだ。

「運動ほとんどしてないくせに全力で走ればそうなるっての…あと次ぴえんとかぱおんって言ったらぶつよ」

 すごく暴力的だけどいい子なんです。

 最近彼女のことを下校の時に尾行したのだが、近所のこども園に行って子供たちと遊んであげるくらいとてもいい子なのです。

「えへへ…そう言って棗はぶたないもんねー」

「……」

「すみませんでした…その拳を下ろしていただくことは可能でしょうか?」

「ちっ」

「ねぇ?!舌打ちしたよね?!」

 懇願すると棗は不満そうな顔をして私をぶとうとしていた手を下ろしてくれた。

「で、アンタの恋は叶いそうなの?」

「んーダメそう」

「いつまでそうしてんのよ」

「…来年まではこのままでいたいのちゃんと勉強には支障きたさないようにするから」

 私を冷たく見る…というよりも呆れた目で彼女は見た。

「歳上の人が好きなのは良いけどさ?アンタ以外を相手が好きだったらどうするのさ」

「その時はちゃんと祝福する」

 私だって子供じゃない割り切れと言うのなら割り切ってみせる。

 悲しくて一週間は涙で枕を濡らすことになると思うけどね。

「はー、アンタが笑って祝福する姿が想像出来ない。鼻水垂らして泣きながら言ってる姿しか想像出来ないよ」

「やらないよ?!」

 隼人さんの前でそんな汚い姿見せることは無い。

「好きな人には綺麗な姿を見て欲しいじゃん?」

「実ったらどうするの?」

「…え?」

「アンタもしかして考えてなかった…とか?」

 私は彼女の問いにこくりと頷いた。

 棗は信じられない!と悲鳴混じりに目を見開いて私を見た。

「好きなのに?!何で考えないのよ?!」

「あー、うん…絶対に天地がひっくり返っても私と隼人さんが恋人になることないかなぁーって」

「じゃあ何で諦めて新しい恋探さないの?」

 私はその言葉を言われてフッと笑ってみせる。

 決まってるじゃないですか、私がどうしてずっと一途に彼を思っているかなんて。

「叶わない恋ほど後から失敗した時にダメージ少ないでしょ?…あ、でもあれだよ?!隼人さんへの恋心は遊びじゃないからね?!これガチだよ?!」


 隼人さんは好き異性として恋人になりたいくらい好き。

 だけどきっとそれは叶わない。

 初めから諦めてどうするんだと思うが、私なんかより素敵な女性がきっといるだろう。

 だって彼は大人で私は子供なんだから。

「アンタ絶対にロクな恋愛しないよそういうやり方してたら」

「そうだよね〜」

「分かってるのにやってるのアンタ」

「私ね今はまだ夢を見てたいの…だって隼人さんには恋人いないんだよ!まだ諦める理由はない…高校卒業するまでその間だけでいいのそこまでは…」

 諦めたくない。

 だって隼人さんのことまだ好きなんだから。

「…泣く時に胸かしてあげる」

「ありがとう」

 私のことを心配していつも言ってくれる友人には感謝しないといけない。

 恋が実っても実らなくても彼女には何かお礼をしようと思う。










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