残酷だけど愛おしい優しさ

 隼人はやとさんは、私が好きと言ったって適当に返してくる。

 私はそれを当然だなと思いながら一方的に好意を伝えている。

 その関係はもう長いことで中学三年から高校三年の今も続いている。

 私の恋は、きっとおそらく成就しない。

 そんな事を考えながら彼のいるお店のドアを開ける。

 今日だってそんないつもの日常だと思っていた。

 目を泳がせて耳を赤くしている彼を見てしまうまでは。


 彼に言って欲しかった言葉ではあったが、私は嬉しいとは素直に思うことは出来なかった。

 好きだけど期限付きの負け戦だと理解していて過ごしていたのに。

「…ありがとうございます」

 私はにこにこといつも通りの笑顔をしている…筈だ、そうでないと困る。


「ぜ、全然下心とかそういうのでもないし…その妹みたいな感じで思って!…そう!そういう意味での可愛いだから!」

 隼人さんって時々残酷な事言うなぁって思った。

 別に傷ついてはいない。

「…そんな必死に言わなくたって分かってますって!嬉しくてニヤケ止まらないんですから勘違いのままでいさせてくださいよ!」

 私は財布を取りだして席から立ち上がった。

 隼人さんは慌ててレジに向かった。


「ご馳走様でした」

 そして私はお店を出た。

 その時の隼人さんの顔はよく見えなかった。


 お店を出て少ししてから電柱に私は寄りかかった。

 泣きたい気持ちが今になって出てきた。

 でも道で泣いてたら本当に変なやつだ。

「あれー?どうしたのー?体調悪い?」

「…」

 顔が赤くなっている三人の男たちがいた。

 私は愛想笑いを浮かべて「大丈夫です」と言ってその場を去ろうとした。


「待ってよ素っ気ないなぁ…ねぇ、俺たち今カラオケ行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」

「すみません私帰ってから勉強とかしないといけないので」

「息抜きだと思ってさ?ねー良いでしょ?」

 ハッキリと断っているはずだけど相手は酔っ払い話を聞いてくれるような人種では無いことは明確だ。

 ここからどうやった逃げ出そうか、そう頭をめぐらせていると男に無理やり腕を引っ張られた。

 力の加減ができないのかこの人たちは?すごく痛い。


 そこで私は怖いという感情を持った。

 私が何をしたっていうんだ教えて欲しい。

 助けを求めるにも近くに人はいない。

 余計な抵抗したら何かされそうだし…隙をついて逃げるしかないのだろうか?

 私が渋々ついて行くことを選択しようとした時に「おい!」と怒鳴るような声がした。

 力強く体を引き寄せられてドン!とぶつかった。


「隼人さん…?」

 そんなに汗かいて息切らしてなんでこっちにいるの?

 どうしてそんなに怒っているの?

 言いたい事が沢山あるのに音にならない。

 いつの間にか男たちはいなくなっていて私と彼だけになってしまった。

「怪我は?」

「な、ないです」

 男たちがいなくなって今更恥ずかしい話かもしれないけど震えてきた。

 先程まで冷静だった頭がぐちゃぐちゃになる。


「怖かったろ」

 彼が優しく頭を撫でてくれるせいだろうか、私の目にはポロポロと大粒の涙が出てくる。

「大丈夫、です」

 私は強がってそう言ったけど説得力が全くもってない。

 隼人さんは苦笑した。

「こういう時に強がらなくたって良いんだよ」


 嗚呼、好きだ私は彼の事が好きだ。

 きっとこうやって私を抱きしめてくれるのは怖がって泣いている私を落ち着かせるためだとしても、私に今向けてくれている優しい笑顔が子供を安心させるためにしていることだとしても。

 勘違いしてしまいそうになる。

 分かっているのに彼が私を何とも思っていないなんて、妹のように大事に思ってくれていると、一番近くにいる私がそれを痛いほどに理解している。

「ごめんなさい」


 何に対しての謝罪か私は分からないけど、私はその言葉を呟いた。










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