第8話『休日』

ジンに買われて七日目、つまり試験最終日。

いつもの様に朝からダンジョンに荒稼ぎに行こうとルナが装備の準備をしていると、ジンが物音によって起きる。


「ふわぁ……あ………ん? ルナ何やってんの? 君今日休みだよ」

「え?」


思わず準備の手を止めルナは未だベットの上で寝ぼけているジンを見る。


「ほら、余分な金は好きに使っていいって言ったじゃん? 毎日働いてたら使う時間ないじゃん? って事でよろ。明日からの話は明日しよう、お休み」


それだけ言い切るとジンは二度寝に入る、「そんな話は聞いてない」とか「もう朝」とか言いたい事はそれなりになったが、別に文句があるわけではない。


「……わかりました」


そんな言葉を残して部屋を出た。




「どうしよう」

ルナは辺りを見回しながらフラフラと街を彷徨う。正直何処に何の店があるかもわからない、それに……どうしよう。

ルナはポケットからお金を取り出す。

金貨3枚と銀貨5枚、正直欲しい物も無い。


目的もなく彷徨っているといつの間にか商店街に辿り着いていた。

「おい、そこの嬢ちゃん。 ちょっと買ってか……何でもねぇ」

ふと声を掛けられた方に振り替えるも、話はそこで終わる。


店主を見れば目線が首輪と顔に動いている。

―――あぁ、そうだった

思わず他人事の様に自分を認識する。


「失礼します」


そう言葉を店主に残し早足で店を去る。

冒険者は怪我など普通だ。

ポーションを飲めば治る傷から四肢切断の自己まで日常とは言わないがよくある話だ。

けど、普通に町で暮らす住人からしてみれば話は違う。


奴隷で尚且つこんなに目立つ火傷跡が有れば声を掛けるのも躊躇うだろう。


分かっていた筈だ。

両親は死んだ、それはこの火傷が証明している。


忘れた事など無い筈だった、毎日織の中であの時の記憶を只繰り返した。



けど思えば、最近はそんな事も無かった。



毎日ダンジョンに潜り只お金を稼ぎ、宿に帰れば奇行をしてる主人の尻拭い。

奴隷商にいた時の様に一人で何かをじっと考える暇などなかった。



奴隷。



奴隷……。


そう言えば、何で御主人様はこの国に居るのだろう。

金持ち、そう考えたら行くべき場所は商人の国『ファネシル』だろう。

私の両親も、いつかはそこの一等地に店を出す事を夢見ていた。

王政では無く資金が物をいう悪魔の国。


いや、まずは別の国で準備をするのが普通か。

だからこそ私の両親もこの国で商売をしていた。

でも、御主人様の力が有れば準備も無しで『ファネシル』で成り上がれるだろうに……。


もしかしたら、知らないのかも知らない。

何処に何が有るかなんて気になるのは貴族様と商人くらいだ。

どうにもご主人様はそこら辺の感覚がズレている。


ただ、もし、もし本当にご主人様がファネシルを狙うなら、いつか両親のその光景を見せたい。




…………らしくもない。



「防具……買おう」

別に欲しい物なんてない、なら道具でもそろえよう。

基本的に防御は強化で事足りる。

なら加護が欲しい。

兎に角、今は力だ。


彼女は防具やを目指す。

その足取りは、今朝よりはまっすぐとしっかり進んでいる。

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異世界転移と言ったらヒモだよね! hurukawa2003 @hurukawa2003

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