第7話「ボス戦」

「おい、そっち行ったぞ!」

「カバー早く!」

「詠唱終るぞ、離れろ!」


冒険者は基本、三から四人程度のパーティーを作る。

それはひとえに、持ち運ぶ食料の量やら、役割分担、単純に赤字となるライン等を考えていくと自然とたどり着く結果だ。


けれど、それは通常探索の場合のみだ。


「お前ら、魔法が放たれたら一気に距離詰めるぞ、次で仕留める」


ダンジョン5階層事に発生する通称ボスモンスター、それらは定期的に討伐隊を組んで撃破する。


「おい『奇行代行者』、あのモーション終わったら突撃だからな」


短剣を構え、ボスを静かに眺めているルナに横から声がかかる。


「………分かった」


冒険者にとって、二つ名は名誉な事だ。

ルナの目から見ても、この男は別に自分を馬鹿にしてそんな言葉を発しているわけでは無いのが分かる。

そうだからこそ、悪気が無いのが伝わるからこそ、思わず右手に握るナイフに力が入る。

「………殺す、まだ冒険者初めて六日目なのに」


意味が分からない、まだ冒険者を始めたばかりの新人に異名がついた事も、着いた異名が明らかに不名誉な事も、その名前が僅か数日でこんなにも広まってる事も、何より…………。


「私名乗って無いのに……」


そんな言葉を思わず呟く。


自分から名乗った事など一度も無いのにどこに行ってもその二つ名で呼ばれる。


誰か知らないけど本当に許さない。



「………!」

「よしお前ら、突っ込め!」


魔法使い達の一斉放火が終わり、大きくボスがひるんだその瞬間武器を構えていた冒険者達は思い思いに突撃する。


「……はや」


魔法を打ち終わり、一仕事終えポーションを飲みながら休んでいた誰かが思わず呟く。

視線の先では、水色の髪を揺らしながらボスに突っ込む女がいた。


「あぁ、あれだろ? 『奇人』の奴隷、首輪に短剣。分かり易いよな」

「………これが新人か」

「まぁ元々冒険者だった奴が奴隷になっただけなんじゃね?」

「………確かに、それならこの強さも納得か」


人間の二十倍はありそうな巨体、それに躊躇なく短剣を持って突っ込んでいく。

巨体に一振りすれば、短剣からは考えられない強烈な切り傷が出来る。


「うわ、『強化』上手すぎ」

「………『奇人』譲りだな」


冒険者なら誰でも出来る魔力強化。

体だけではなく、服や武器にすら魔力を纏わせれば耐久力や攻撃力が上がる。

ただ、誰でも出来るが強化の幅は人によって違う。


「今回は楽だったな」

「だな、帰って酒飲もうぜ」


ボス戦は既に大詰め。

特異個体や主力メンバーの負傷など、イレギュラーは特に起きず順当に話は進んでいる。


人によってはポーションを飲み、帰りの道に備え体調を整えている。


ただ、水色の奴隷はボスが力尽きるその時まで、何かの恨みを晴らすかのようにひたすらボスを切り続けた。


「……殺す」









「おい、ハルガー酒!」

「はぁ……こんな昼間から」

「は? 俺は客だぞ」

その言葉を聞くとハルガーは軽くため息をつきながらもキッチンから酒を出す。

ドン、そんな音と共にカウンターに置かれる。

それをジンは一目散に掴み喉に流し込む。

「あー うま! 上手すぎる!」

ジンは体を震わしながら歓喜を示す。

空になったジョッキを眺めながらニヤニヤ呟く。

「おい、良いだろハルガー、酒だぜ?」

「はぁ、お前昨日もその件やったろ」

最初は付き合っていたハルガーも今じゃ軽くあしらうだけで特に付き合わない。

「良いもんは良いだろ、マジで人生で一番上手い酒だ」

「………お前の稼ぎならもっと上手い酒が買えるだろ」

「馬ッ鹿お前、他人の金で飲み食いする物以上にうめぇもんがあるか」

「……奴隷を働かせて金を主人が貰うのは当たり前だが…………お前がやってるのを見ると何故か正しくない事の様に思えるな」

ジンはずっと呆れ調子のハルガーに付き合う事は無く、ただひたすらこの幸せに浸かる。

「つまみも欲しい、肉くれ」

「ほらよ」

「うっま、おいハルガー見ない間に腕を上げたな、いつからお前は三ツ星シェフに勝る腕を身に着けたんだ?」

「はぁ…………酔っぱらって騒ぐなら部屋に戻れ、三ツ星とかわけわからん妄言まで吐き始めやがって」

ジンとしては最大限の称賛を送ったつもりだが、当然この世界に三ツ星レストランは無いので伝わらない。

「よし、こうなったらハルガー、追加でつまみを頼む」

「もう寝ろ、お前そのなりと言動の癖に全然酒強くないんだから」

「は? んなわけねぇだろ、こんなの『強化』使えばいちころよ」

「折角の特技もタダノ酒飲み道具か………なぁ、他人の金で食う飯が上手いなら他人を働かせて寝る睡眠も格別なんじゃないか?」

部屋に帰らせようと思わず適当な事を投げかける。

昼の大して人が来ない時に、本格的に料理を出すのはとても面倒だ。

まぁ、客は客だ、そう思い準備を始める為食料庫から材料を取り出そうとした時……。

「ハルガー、お前は天才だ。ちょっと寝てくる!」

「…………………はぁ」






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