第5話「独り言」

「おめでとうございます! これでDランクに昇格です、こんなに早く昇格する人なんて中々いないんですよ?」

「……そうですか、嬉しいです。ありがとうございます」


冒険者ギルドで今日の依頼分の報酬を貰う。

「お、ねぇねぇ君見かけない子だね。 誰が主人だか知らないけど俺と遊ばない?」

知らない人にギルドで声をかけられた。


冒険者ランクを表す腕輪を見てみれば、銀色。

C級冒険者だ。

「すみま「おい馬鹿やめとけ! そいつあの『奇人』の奴隷だよ」

「あ、あの……すいませんでした!」

男はそう言ってすぐさま何処かに走って逃げる。



…………またこれだ。

誰かに絡まれても、『奇人』の名が私を守る。

『奇人』ジン、ソロでどんな武器、どんな魔法でも使いこなし最速でCランクまで上がった男。やる事なす事全て常識はずれでここらの冒険者に恐れられている、と言うより気味悪がられている。


そしてなぜか、Bに上がる前に引退している。

『奇人』だろうが何だろうが腕は誰もに認められていて冒険者を引退した今でも、個別依頼が殺到しているらしい、まぁあくまで噂だけど。



『奇人』確かにその通りだ、私ルナは同意する。

私の主人、ジンは変わった人間だ。


「お、ニーナちゃんお帰り。ちょっとジンの馬鹿に後で言っといてくれ、何やってんのか知らないけど異臭がすげぇんだよ。あれ飯時までに辞めなかったら宿追い出す、あっでもルナちゃんはいていいから。まぁともかく宜しく」

宿に帰ってそうそうハワードさんにそんなことを言われる。

どうやら私のご主人様は又頭のおかしい事をやっているらしい。


わかりました、そんな言葉を残し二階に上がる。

すると確かに、僅かだか異臭を感じ取れる。

何をやってるんだろう。


「ジン、飯時までに辞めないとハワードさんが宿追い出すって言ってたけど」

「ん? あぁお帰り、そうか……もうそんな時間か」

部屋に入ってみれば確かに異臭が凄い。

原因は探してみればすぐわかった。

朝出かける時には無かった鍋がでかでかと置かれている。


「……黒魔術ですか?」

中を覗いてみれば紫、黒、緑、数秒おきに色が変わる液体が鍋で煮詰められている。

そしてジンはそれに魔力を注ぎ込みながら混ぜている。

結構長時間煮ているらしく、額には汗が滲んでる。


「ただの錬金術だよ、何か飲めば一日魔力が使い放題らしくてさぁ飲んでみる?」

見れば確かにご主人様の隣には錬金術に関する本が幾つか並べられている。

「絶対に嫌です」


「まぁ……俺も要らないかな。よし!」

次の瞬間には鍋は跡形も無くその場から消えている。

偶に部屋から物が増えたり消えたりするのはこれか。

「それを使えば部屋が片付くんじゃないですか?」

「そもそもなんで片付けなくちゃいけないのさ、ここはちゃんと借りた部屋だよ?」

「…………はぁ、何でも無いです」


奴隷の身分で過ごしずらい、武器が散らばってて危ない、とは言いづらい。

いや、武器は当たり前な気もするが何より本人がこの部屋で問題なく暮らしている。

もはや何を言っても無駄だ。


馬鹿な主人を諦めて椅子に座る。

そして短剣を取り出し手入れを始める。

「それで、今日はいくら稼いだの?」

「銀貨六枚です」


「おー、内訳は?」

正直余り覚えていない。

「確か、第一階層で取った魔石素材が銀貨一枚程度で、二階層で取れたクリスタル他素材が銀貨二枚、あとグレイハウンドの討伐依頼で銀貨三枚です」



『クリーン』

ジンは魔法を唱えてからベットに飛び込む。

「よいしょ、にしても試験開始から四日、初日は銀貨二枚しか稼げなかったのに成長したねぇ」

「それは! その……慣れてなかっただけで」

「いやぁ別にせめては無いよ、もう昨日で金貨一枚は達成したわけだし。もう敬語じゃなくても要んだよ?」

試験は終わった、そう言いたいらしい。

「……私は、奴隷なので」


そう、私は奴隷だ。

奴隷だから、こんな毎日を送っているんだ。


………しょうがないんだ。


「まぁ強制はしないさ。お金も後三日、好きに稼いで好きに使うといいさ」

それを機に会話は終わる。



私の主人は屑だ。

今も外で稼いできた私を横目にベットで横になって寝ている。

「あ、ハワードが来たら起こして。 もう今日は疲れた」

絶対私の方が疲れてる。

……でも、悪人ではない。


奴隷の私に何かを強要する事は基本ないし、私が何をしようが文句を言ってこない。

でも、それは優しさから来てるものじゃない………と思う。

私が嫁にしろと言った時、意図が分かった上で承諾してきた。

試験だって。



それに、何故ヒモ?

世界一の金持ちは難しくても、ご主人様ならそこそこの大金程度あっという間に稼ぐことが出来る。

あのスキルは世界を変える力がる。


…………わからない。

「はぁ」

結局、どれだけ考えたところで結果は変わらない。

私は奴隷だ。

首輪に魔力を流され何か言われたらそれで終わり。

屑だろうが悪人だろうが関係ない。


私は、どうすればいいだろう。

いや、どうする事も出来ないから困ってるのか。


私は奴隷だ、ただ主人の望むままに。

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