第3話「男なら、夢はデカく」

「ルナ、契約をしよう」


突然の事に呆然とする彼ルナを無視し、俺は話を続ける。


「いいか、俺はヒモに成りたいんだ」

「…………」


反応が無い、どうやら聞こえなかったらしい。

テーブルを両手でたたき、身を乗り出し、顔を近づけ、もう一度言った。


「ヒモに成りたいんだ!」

「………はい」


よしよし、俺は椅子に座りなおす。


「良いか? 俺は人の金で食って生きたいの、めんどくさい事とか嫌な事とか全部人に押し付けたいの!」

熱弁する俺にルナはぎこちなく相槌を打つ。

「…………はい」

よし、わかってもらえたな。

「まぁまぁまぁ、ここまでならだろ?」


「え?」


ん?

なんか奴隷が立場を弁えず主人を正気か? コイツ見たいな目で見てくるけど。

まぁ良い、ここからが肝心だ。


「でも俺は男だ、男ならビックに! お前もそう思うよな」

「……ソウデスネ」

「そうか、そうだよな! そこで俺は決めたんだ」


俺は話をいったん区切り一拍おく。

どこかで見た、上手い政治家は重要なセリフの前に間を作るらしい。

気分は社長、嫌大統領、ここから俺のセカンドライフが始まる。


「そうだ! 他人の力で世界一の億万長者に成ろうってな!」



「………」

「そうだ! 他人の「はい!」

あ、聞こえてるなら良いのよ。


「そ、それでご主人様は私に何を……」

彼女は不安そうに尋ねてくる。

そうだった、熱くなりすぎた。

これは契約の話だった。


「この俺の計画に賛同し協力してくれると言うなら、俺の出来る範囲で一つ約束を叶えよう」

ここで一拍間を………優秀な政治家が……(以下略

「奴隷解放でも、その火傷跡を治すポーションでも、自分の両親を殺したモンスターを殺す力でも。 これは契約だ、これ以降君の扱いは奴隷じゃなく協力者だ、敬語も要らない。 まぁ嫌なら奴隷として働かせて別の奴隷を探すが……選ぶのは君だ」

「では、私を嫁にしてください」


反応の鈍かった彼女が即答した。

嫁、嫁……良いじゃん。

「ハハ! え? なんだ、やる気あるじゃん。 期待外れの返答で悪いけどその条件で良いよ、ただポーションは使うし愛人も許してよね」

「……わかった」

彼女は一種嫌そうな顔をするも受け入れる。


この世界は日本ほど厳密じゃないが基本結婚したら財産は共同の物になる、つまり本当に億万長者に成ったら彼女に半分渡さないといけない。

そして、結婚相手は普通大切にする物だ。


彼女はこの契約で将来の財産、自分の今後の安泰二つを手に入れた。

まぁ、どうやら断らせたかったみたいだけど。


「ルナ、失敗したね。そんなに優秀だと知っちゃったら沢山酷使しちゃうよ、もうちょっと爪は後に見せないと」

「爪? ……旦那様は妻を蔑ろにするような人じゃないですよね?」

ルナが八つ当たり気味に聞いてくる、しかし残念。

「さっき言ったと思うけど、俺は他人の力で世界一の金持ちに成りたいんだ、結婚したら身内だろ? そんなのヒモとは言わない。だから結婚式は世界一になった後だ、それまでその呼び方は止めてくれ」

契約は俺の勝ちで終わり。

ただまぁ、想像以上に良い出会いだった。

「ジン、それが俺の名だ。よろしく頼むよルナ」

「……よろしく」

差し出した右手を、少し嫌そうに握るルナ。

でも、騒ぐとも逆らうことも無い。

やはり彼女は頭が良い。


これなら、俺のスキルも上手く使ってくれそうだ。

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