異世界転移と言ったらヒモだよね!
hurukawa2003
第1話「異世界転移と言ったらヒモ」
「なぁ旦那、こんな奴隷はいかがですか? 元冒険者、酒癖が悪くて奴隷落ちしたものの腕は元C級と文句なし。旦那も冒険者ですよね?」
薄暗く埃っぽい部屋。
辺りには裸の人間が折に入れられて並んでいる。
「あー………女がよくてな」
俺がそう答えると、それを早く言ってくれと言わんばかりに男は下卑た笑みを浮かべ納得したように頷く。
「私としたことが申し訳ありません。 さっき遠かったエリアで何の興味を示さなかったらってっきり違うのかと。ならこちらへ」
男はさっき通ったエリアへ手を向け、俺を誘導する。
「嫌、子供だろうが老婆だろうが取り合えず働けそうな女を紹介してくれ」
男は立ち止まり考え出す。
男は右を見て左を見て誰か適合者を探すが、心辺りが無いのだろう。
自分だって変な注文をしている自覚がある。
「ここは貴族や商人の方にお勧め出来そうな奴隷が少ないですからねぇ……子供ぐらいですよ?」
こちらにも予算がある、もともとわかっててここに来たのだ。
「あぁ、文句を言う事は無いよ。 案内してくれ」
「……わかりやした旦那」
どうやら子供の奴隷はここらのエリアには居ないらしい。
男は俺に文句を言われないよう釘を刺すかのように話し始める。
「ここらの子供奴隷は基本口減らしか親の借金の肩背負ってなった奴らばっかり何で、スキル鑑定もしてなければ学も無いのが多いんですよ旦那」
スキルを鑑定してない子供は基本金貨二枚だ、鑑定してスキルがあればもっと高くなるが持ってない人間の方が圧倒的に多い。
ただ、鑑定しないからこそ持っているかもしれない。
そんな期待を込めて、金貨二枚だ。
「あーもしかして文字も読めないか?」
「そうですねぇ、あーでも商人の娘がいましたわ。火傷で面がひどく女として売れないってんで売れ残りのが」
「……そうか、文字が読めるなら良い。見してくれ」
おいおい、そんなテンプレ俺にも用意してくれてるのか。
こりゃ完璧だな。
ようやく俺にも運が回ってきた。
異世界転移して早一年。
笑いあり涙あり、慣れない世界でそこそこ頑張ってきた。
ギルドで絡まれる事も、「こんなの初めてですよ!」とギルドで言われる事も、王族や貴族を助ける事も、全部無かった!! なぜ?
おかしい。
異世界転生ってここまでセットじゃないの?
でも、そんな俺でも「旦那?」ようやく、ようやくテンプレ「旦那!!」
「っあ、悪い」
顔を上げてみれば、肩や顔に火傷跡がついた女が座っている折の前に連れてこられた。女は一瞬こちらを見たが、すぐに興味を失ったのか最初と同じように何処か遠くを眺めている。
「商人の娘っつう事で、読み書き計算は出来るんですがね? 商人の基本は接客、この顔じゃあ宝の持ち腐れで」
「回復魔法は?」
「いくら商人といえど大金貨五枚はきついでしょう、私もスキルすら鑑定していない子供にそんなの払ってられませんよ」
ん? そう言われ改めて見てみるが彼女が十四以下には見えない。
「まだ十五じゃないのか? 結構デカく見えるが」
「あぁ、今年十五ですよ。 ただ鑑定にも金がかかりますからねぇ」
「なる程な」
ふむ、火傷を負った商人の娘。スキルすら未鑑定で本人も絶望の末かほぼ無反応。
…………テンプレだな、俺がスキルかポーション買って直してやればそこらで見たことある小説の出来上がり。
「わかった、いくらだ?」
「んーもう二年近く売れてないし、スキルも未鑑、金貨一枚でどうです?」
テンプレ通りの捨て値。
まぁこんな覇気の無い人間の値段何てそんなもんか、これなら子供の奴隷の方が価値がある。
まぁ、異世界転生者は皆違うだろうけど。
「わかった、これで」
よっぽど売れない在庫が目障りだったのだろう。
金貨を貰った男は嬉しそうだ。
「でも旦那、どうするんです? そんな子供置物にしかなりませんよ?」
「あぁ、俺はヒモになるのが夢でね、ちょっと冒険者になってもらおうかと」
「「え?」」
気分良さそうに金貨を眺めてた男と、さっきまでピクリとも反応しなかった奴隷が反応する。
「え?」
部屋に俺の呟きが響く。
いや、異世界転生と言ったらヒモだろ。
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