主人公と共に自分の言葉を探す旅

ダウナー系主人公各務が自分の言葉を見付けていく物語。道はまだ半ばです。
自分探しなんて大人になりきれていない時代にするもの? きっと違う。みんな自分が何ものなのか探し続けている。読み終わった後、そんなことを考えました。

声優という、台詞を当てる仕事で食いつないでいる各務。彼を取り巻いているのは希薄な関係性ばかりで、彼女にさえ心を許せない。まるでモノクロの世界に住んでいるよう。

そんな毎日に飛び込んできた夏希。彼女によって世界は少しずつ彩りを取り戻していきます。そして、「他人の言葉」の中に自分の心を発見していくのです。

悩んでいるのは自分一人じゃない。みんな足掻きながら生きている。少し心を開いたら、気付くことが出来る。それを、各務と一緒に体験していきました。

物語を通じて感じるのは、語り加減が絶妙であると言うこと。多くを語らないのです。でも、言葉足らずではない。台詞や動作を通じて読者の想像力を掻き立てるから、登場人物がリアルに浮き上がるんだなと感銘を受けました。

時々苦しくなるくらい共感し、一緒に落ち込んだり苦しんだりしながら、最後は爽やかなカタルシスを得られる。とても素敵な物語です。

その他のおすすめレビュー

堀井菖蒲さんの他のおすすめレビュー376