この作品にえがかれている業界は、私とは縁遠いものです。
けれどそこに感じる熱量、気迫のようなものは、質量を持つような実在感をもってリアルを感じさせてくれます。
登場人物のあがき、もがき、必死にやれることをやってしがみついて、間違っているかもしれないけどそれでもすがりついて、自分なりに進もうとするその姿は、読んでいる自分を巻き込んでいきそうなほど強いうねりを感じます。
その静かで激しい力強さに惹かれます。
なんとなれば、嫉妬すらするほどに。
(この「嫉妬する」という表現は、私の評価軸としても、この作品に対する評価軸としても、おそらく最大級の評価になると思います)
この物語のリアルさは、単に作者の実体験が盛り込まれている、というだけの理由で成り立っているものではないと思います。
主人公は終始、自分の本当の言葉はなんなのか悩みますが、ある意味でそうやってリアルな自分が見つからずにもがく姿こそが、胸に迫るリアルさを作っているのかもしれません。
何者にもなれていないから、何者かが投影する余地がある……のかもしれません。
あがいた先につかめるものがあることを、願いたいと思います。
本作は、仕事はそれなりにありつつ、世間的には無名の男性声優にスポットを当てたヒューマンドラマです。
声優とは物語や作品に関わる「クリエイティブ」なお仕事──と認識しがちだと思うのですが、主人公・各務の心境へのアプローチが「素人」目には新鮮で興味を惹かれました。各務氏は「他人の言葉をしゃべるだけの仕事」と卑下し、自身の「芸」とは何か、に迷い悩んでいるのです。
アニメ、吹替、演劇──仕事として割り当てられた台詞は滑らかに紡ぐいっぽうで、各務氏は「自分自身の言葉」を探します。微妙な関係の彼女への本心、尊敬する先輩への、相半ばする嫉妬と憧れ、偶然交流を始めた「お隣さん」への心の揺らぎ。それらは時に彼を苦しめ、悩みを深めもするのですが──と、縺れる想いの結末は本編を読んでお確かめいただくところですが、この場で推したいのは「声を使って」「言葉で」「何をどう」「伝えるか」にひたむきな各務氏の姿です。悩みを抱えていても仕事では声に出さないように努め、関わる人たちからかけられた言葉を噛み締めて進んで行く、プロフェッショナルの在り方を細やかに描いていると感じました。
また、吹き替えの洋画やドラマ、テレビCMやアニメなど、成果物は日常的に接するものの、実態はあまり知られていないであろう業界を描いている点も興味深く楽しく読みました。アニメのキャストを決めるオーディションの様子など、作者さんが関係者なのか取材されたのか、フィクションなのかは不明ですが、リアリティを感じました。関係者で客席を埋める小劇団での人間模様、声優同士で共有する危機感や競争心なども。
主人公の心の動きだけでなく、お仕事小説としても楽しい作品だと思います。
ダウナー系主人公各務が自分の言葉を見付けていく物語。道はまだ半ばです。
自分探しなんて大人になりきれていない時代にするもの? きっと違う。みんな自分が何ものなのか探し続けている。読み終わった後、そんなことを考えました。
声優という、台詞を当てる仕事で食いつないでいる各務。彼を取り巻いているのは希薄な関係性ばかりで、彼女にさえ心を許せない。まるでモノクロの世界に住んでいるよう。
そんな毎日に飛び込んできた夏希。彼女によって世界は少しずつ彩りを取り戻していきます。そして、「他人の言葉」の中に自分の心を発見していくのです。
悩んでいるのは自分一人じゃない。みんな足掻きながら生きている。少し心を開いたら、気付くことが出来る。それを、各務と一緒に体験していきました。
物語を通じて感じるのは、語り加減が絶妙であると言うこと。多くを語らないのです。でも、言葉足らずではない。台詞や動作を通じて読者の想像力を掻き立てるから、登場人物がリアルに浮き上がるんだなと感銘を受けました。
時々苦しくなるくらい共感し、一緒に落ち込んだり苦しんだりしながら、最後は爽やかなカタルシスを得られる。とても素敵な物語です。
声優の各務は台詞をしゃべる。それは自分の心の伴っていない「嘘」であり、彼は演じていない時も「本当」で向き合うことが出来ない。そんな彼がじわりじわりと自身の心を見つけ、また、他人の心に触れる。
とにかく読んでいて心地よかったです。あっちからもこっちからも繰り出される「人間」にどっぷり浸かれました。この感覚をきちんと言い表す言葉を、どうやら私は持っていないようです。もどかしい。
人間の上っ面や深く、微妙な心の動きにも向けられる眼差し、それぞれが好き勝手言う人間味、突いてくる本質、琴線に引っ掛かるやり取り、スッと心に刺さるセリフ。
それは「味」とか「おかしみ」とか、もしかしたらそういうものなのかもしれません。
ダウナー系の各務視点なため、物語は一見、淡々と語られているように見えます。でも、心が動きまくっていること、熱意や矜持といったものがハッキリとわかりました。また、描かれているのが微かな心の動きであっても、水面が凪いでいるからこそ、その波紋が際立つのだと思いました。短い言葉だからこそ鋭く。インパクトのある言葉を使うからこそより強く。胸を打たれる場面がたくさんありました。
表現もとにかく絶妙で心地よかったです。
描かれているのが負の感情であっても嫌みなくスッと入ってくる。随所でクスッとできる。声優、演劇、落語を実際に肌で感じたくなる。心地よいところはまだまだあります。
言葉では表しきれない数々を、是非たくさんの方に味わっていただきたい作品です。
主人公の各務くんは、売れっ子というわけではないけど、副業しなきゃいけないほどでもない、絶妙な売れ具合の声優さん。
表情筋をあまり使用しないタイプの青年で、自分の中には自分の言葉などなく、いつも誰かの言葉をなぞっているだけだという思いに囚われています。
そんな各務くんなので、自分から積極的に誰かに深く関わっていくことは無く、基本は周辺の人間が起こすアクションによって物語は動いていきます。
この物語は、とにもかくにも人物描写が抜群にうまい。
どのキャラクターも立体的で、魅力的な光の部分と、濃い影の部分を併せ持っています。
途中、各務くんの周りの人間関係がこじれてくるのですが、読むうちにあまりに彼に思い入れすぎて、お説教をしてきたキャラクターに本気で腹を立てました。
これは物語なんだと俯瞰できなくなるほど、リアリティがある人物に会えますので、ぜひ。
声優として他人の言葉を話す各務。自分自身の言葉がないと思いながら活動を続ける彼が、少しずつ自分の言葉を見つけていくお話です。
私は声優のことも落語のことも全然分からないのですが、それでもこちらの作品、すんごく面白い。
人間の描写がとてもリアルで、読みながら「あーこういう人いるー!」となりますし、登場人物達の言動にも納得感があります。
だからこそ周囲との関わりによって主人公が徐々に変わっていく様は、時にもどかしさを感じつつも応援したくなります。そしてその周りの人達の身に起こる出来事の数々にまで一喜一憂させられるのです。
それからこちらの作品、タイトルがずるい(良い意味で
ある程度読み進めていると、見るたびに「これ絶対エモいやつじゃん……」と悶えます。未完結の今ですらそうなのですから、完結後に見たらどうなるのか……とりあえず確実に語彙を失う自信があります。
完結まであと少し。各務や彼の周りの人物達がどうなっていくのか、しっかりと見届けたい作品です。
カクヨムコン9、現代ドラマイチ推し作品
主人公の各務と関わる人間が、それぞれとても丁寧に描かれていて、それがとてもリアルで思わず引き込まれてしまった。
一気読みですよ。
人物描写が巧い。
女の争いとか、リアルすぎて笑えますわ。
ドラマがしっかり出来てるからか、安心して読める。
スラスラ話が入ってくる。
生活感が伝わる、体温さえ感じられるリアルさには脱帽です。
各務の今後が気になるところです。
完結したので追記です
かがみ~ん
各務ロスが、つらい。でも今彼はきっと幸せ。
このロス感を共有したい方、ご一読を!
損はさせません。