本当の言葉ってなんだろう。この物語がリアルと感じるのはなぜだろう。

この作品にえがかれている業界は、私とは縁遠いものです。
けれどそこに感じる熱量、気迫のようなものは、質量を持つような実在感をもってリアルを感じさせてくれます。
登場人物のあがき、もがき、必死にやれることをやってしがみついて、間違っているかもしれないけどそれでもすがりついて、自分なりに進もうとするその姿は、読んでいる自分を巻き込んでいきそうなほど強いうねりを感じます。
その静かで激しい力強さに惹かれます。
なんとなれば、嫉妬すらするほどに。
(この「嫉妬する」という表現は、私の評価軸としても、この作品に対する評価軸としても、おそらく最大級の評価になると思います)

この物語のリアルさは、単に作者の実体験が盛り込まれている、というだけの理由で成り立っているものではないと思います。
主人公は終始、自分の本当の言葉はなんなのか悩みますが、ある意味でそうやってリアルな自分が見つからずにもがく姿こそが、胸に迫るリアルさを作っているのかもしれません。
何者にもなれていないから、何者かが投影する余地がある……のかもしれません。
あがいた先につかめるものがあることを、願いたいと思います。

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