この片腹痛い『トーナメント』に終止符を!
その男は
トレーラーハウスの扉は準決勝戦の前にヨーセキが溶かしてしまったままで直されていない。だからこの男が入ってくるのは容易い。オイラはヨーセキにビクついていたし、ヨーセキはヒョーセツを愛でていたし、ヒョーセツはヨーセキに引っ付いているし、誰も扉の方には注意を向けていなかった。不用心がすぎる。開けっぱなしなのだから、人間が入ってきてもおかしくはない。
もう決勝戦なのだ。
この世界に残っている人間は、決勝戦に勝ち残っているコンビしかいない。
――基本的には。
ヒョーセツはほら、レアケースだから! ね!
「
こいつ、仕切るぞ!?
ヨーセキは警戒して、ヒョーセツを自分の後ろに隠す。オイラも隠れていいかな。
「ふむ。自己紹介がまだだった。
サチオ。日本人か。日本人の特徴といえばヨーセキやヒョーセツのような黒髪だが、サチオはその名前を伏せてしまえば日本人には見えない。それだけ銀髪が目を引くのだ。濃紺の瞳も、日本人離れしている。
「
意気揚々と言い放つサチオへ「……どうやって?」と訊ねてしまう。答える代わりにサチオはデニムパンツからボタンを取り出すと、オイラに投げて渡した。サチオが装着している首輪の起爆装置だ。刻まれているエントリーナンバーは一致している。
しかし、オイラがヨーセキの首輪を起爆するためのボタンを所持しているように、本来は参加者が持っているものだ。召喚された側の人間であるサチオが持っているのはおかしい。しかもそれを対戦相手のオイラに渡してくるのはもっとおかしい。
「このワールドそのものを【疾走】させる」
専門用語をお出しされた。なんだシッソウ? 失踪?
「わかりました。」
ヨーセキには伝わったのか、警戒を解いた。なお、ヒョーセツは理解できていないらしく、ヨーセキの背中にくっついたまま離れない。ひそひそと「おにいちゃん、この人は知り合い?」と耳打ちしている。
「
おおよそ収納スペースには見えない黒いショールの中から一冊の本――表紙は破れかけて、チラッと見えている側面も相当読み込まれているのか所々がくしゃくしゃになっている――を取り出すサチオ。
「常磐溶石」
サチオはページをパラパラとめくって、探していたページを見つけたのかそこで指の動きを止める。呼びかけられたわけではないだろうが「はい。」とヨーセキが返事をした。いや、まあ、タイミングが合致しただけであって、ヒョーセツへの応答だったかもしれない。
「ぼく自身がパーフェクトなスターであることは万人が認めるトゥルースだが、きみたち兄妹の美しさも評価しよう。住んでいるワールドが異なり、出会いはインポッシブルだと諦めていたが、この
????????
「ありがとうございます。」
「おにいちゃん、わかったの!?」
「いいえ。」
えーと、同じ日本人ではあるけれど? 生きている時間軸が違うから会えないんじゃないかって諦めていたところを『トーナメント』でこの世界に来たことで会えた、と。サチオ、人間というよりむしろ我々寄りか?
「その本はなんだ」
オイラはサチオが持つ、今にも瓦解しそうな本を指差す。本を閉じたサチオは「アカシックレコードだ」と言って、本を黒いショールの中へしまった。
その本が? ただの使い古したノートにしか見えないその本をアカシックレコードと言い張ります?
「そんなバカな」
「
ヒョーセツは途中から理解することを諦めて、冷凍庫を開けてフローズンマンゴーを選んだ。オイラも考えるのをやめたい。
オイラは『トーナメント』に連続で出場しているのだから、思い入れがないわけではない。サチオがこの『トーナメント』を何らかの力(シッソウ?)でやめさせたいのであれば、運営に代わってオイラが阻止すべきなんじゃないか。とも思うけど、オイラには大それた力はない。それに、オイラは今回優勝できればいいのだ。今回が最後の『トーナメント』になるのなら、それはそれで名誉なことでもある! ――たぶん。最後の優勝者ってかっこいいんじゃない?
「いいだろう。オイラは何をすればいい?」
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