Sから始まる単語多すぎでしょ。いまから半分に減らしても誰も文句言わないよ。
「やっちまったぜ……」
りしゅうちゃんは召喚の間に車椅子で現れた。右足がギプスで固定されている。ステージから客席へダイブした――と思いきやステージ上で足を滑らせて転落したが正しかったらしい。確かにダイブするような曲ではなかったはずだけど、アルティメットエンターテイナーなりしゅうちゃんのことだから今年は演出を変えることもあるんだろうなぐらいに思ってしまったよ。ステージそのものが爆発した年もあったからさ。三年前だっけか。
着地をミスったせいで参加者は半日待たされた。オイラの顔を見ると、りしゅうちゃんのちんまりとしたお口から「またお前か」という言葉が吐き出される。
「準優勝だから」
召喚の儀は前回大会参加者およびその順位が高くて生き残っている者が優先される。優勝者は天界へ昇格して二度と参加できないので、五大会連続で準優勝なオイラは一番手が定位置みたいなもん。ちっとも嬉しかない。早ければ早いほどよい結果が得られるわけでもなし。
「あーね」
ステージ上ではあれだけハイテンションだったりしゅうちゃんだけど、勝手知ったる間柄のオイラには塩対応だ。だがそれがいい。次の参加者が誰なのかは知らんが、おそらくアイドルスタイルのりしゅうちゃんのお顔を見せるんだろうな。
「なら手順の説明は省くべ」
「はいはい」
エントリーナンバー1番。
オイラの名前はカロン。
普段は渡し守をしている。
あの世とこの世の間に流れている川に、小さな船に乗って死人を待つ役目。オイラがこの『トーナメント』で優勝して、神の座に就くことになった暁には、次のカロンが現れてその役目を引き継ぐから安心してほしい。
「巻きでお願いされちゃってるから、さっさとよろ」
「ほいさ」
オイラは『
はたから見ていたりしゅうちゃんが「そんなけったいなもの使わんくても」と毒づいた。せやろか。ほんまにオイラが『運だけの
「いでよ! 異世界からの
魔法陣が赤色に輝く。
……赤? あれ、おかしいな?
「これは!」
「一体何が始まるんです?」
「えすあーる! えすあーるやないか!」
りしゅうちゃんが興奮して車椅子から立ち上がろうとして「あいたー!」と右足を庇っている。
「SRじゃあ、URよりランク低くなってない!?」
この一年間でプレイした人間界のソシャゲ(この召喚の儀のようなガチャ要素のあるゲーム)では、エスアールはスーパーレアの略称だった。ウルトラレアより排出率が高い。確定チケットを使用したのにこの結果では引き直しするしか。
「ちゃうねん! スペシャルレア!」
痛みから復帰したりしゅうちゃんが訂正する。オイラが「そんなレアリティ、去年なかったじゃんか!」とツッコめば「今年からの新要素でしゅ! ウルトラレアの上! 一発目から出るとは思わんやん!」と逆ギレされてしまった。せやけどUR以上確定チケットならありうるやん。
「……?」
やがて空間を赤く染めていた光が弱まり、魔法陣の中心に人間が現れる。ウルフカットの黒髪に、白い長袖のシャツ――右側だけが腕まくりされている――と黒いパンツに青いスニーカーの青年。首輪がついているのは、召喚が正しく成功した証だ。瞳の色からして日本人っぽい。さすがスペシャルレア!
この『トーナメント』は初回からしばらく日本出身の神が優勝し、その功績を讃えて使用言語は日本語で統一されている。ルール説明やチュートリアルを翻訳する手間が省けるのはいい。精悍な顔つきをしていて賢そうだから安心。
「汝の名は?」
はやる気持ちを抑えてその名前を訊ねる。話しかけられた側は車椅子のりしゅうちゃん、続いてオイラに視線を動かしてから「
「
「「ヒョ?」」
オイラとりしゅうちゃんは顔を見合わせる。異世界に飛ばされてきたばかりの人間にしては堂々としていた。戸惑うでもなく、「ここはどこだ」に類する質問ではない質問を投げかけてくるなんて珍しい。
参加者に人型が多いのは、このファーストインプレッションで異形と対面してドン引きされないようにするためだ。大体の人間は腰を抜かすよ。よっぽど普段からバケモンと戦っているみたいな人間でもなければ。
「妹です。」
りしゅうちゃんが「あー、おけおけ。引き離されたパターン?」と大げさにうなずいてみせた。まれによくある。家族で歩いているところで、片方だけがこっちの世界に来てしまうパターン。そういう人間は元の世界に帰りたがる。
「このトーナメントで優勝すれば再会できるぞ」
オイラが(ルール上はリタイアしても元の世界には戻れるのだけど、そこは伏せて)言うと、ヨーセキは「そうですか。」と視線を落とした。
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