Special☆Issue

秋乃晃

トゥ座グローリー

「今日は、あたしのライブに来てくれてアリガトー!!!!!!!」


 ステージ上でりしゅうちゃんが叫ぶ。参加者の一部が「おめえのライブに来たわけじゃねーから!」やら「さっさと始めろ!」やらの怒号を飛ばした。――まだこんなやついるんだな。


「ノリが悪いゾっ」


 怒号の発生源のほうで、今度は悲鳴が響き渡った。

 このトーナメントも666回目になるんだから、過去の開会式セレモニーの様子ぐらい下調べしとけよ。いや――正確には666回目じゃあないか。まあ、運営は第666回って言うてるし666回目としておこう。


「これでプリティな姫のピュアピュアな観客オーディエンスしかいないよネっ!」


 りしゅうちゃんは姫なんだから!

 姫の機嫌を損ねちゃまずいだろーが!


「一曲目からテンション上げてゴー!」


 りしゅうちゃんが拳を突き上げると、先ほどの惨事のおかげだろうか、皆も「うおー!」という雄叫びとともに拳を突き上げる。オイラも右に倣った。参加者の中には人型ではない者もいるから、人型ではない参加者は尻尾をピンと立てたり羽根をばたつかせたりしている。

 この開会式に参加するのも今回が最後だ。りしゅうちゃんの自作曲(※りしゅうちゃんは作詞作曲編曲と全て自分でやってのけてしまうマルチクリエイターとして有名である)へとその身を委ねるのも悪くない。上手かみて下手しもてに設置されたスピーカーから聞き覚えのあるイントロが爆音で流れ始めると、りしゅうちゃんはノリノリで左右にステップを踏みながら「おいっ! おいっ!」と参加者を煽っていく。


「隣の芝生がとってもあおーい

よく見りゃそれってグリーンバック

背景とどうかしちゃいそー」


 曲の合間にオイラが参加しているこのトーナメント――通称『思想バトルトーナメント』について紹介しよう。もっと長ったらしい正式名称はあるが、その正式名称を一字一句間違えずに覚えているのは運営サイドぐらいなもんだ。皆、通称を用いるかただ単に『トーナメント』と呼んでいる。思想バトルってなんだよ。


「戦いはいつでも超☆エキサイティング!

世の中あべこべ大乱闘でエキセントリック!

ナンバーワンでオンリーワン

トップを目指して」


 今回は第666回と銘打っているものの、一年に四度行われた年もあれば一回も開催されなかった年もある。さっき曖昧になってしまったのはそういうことだ。近年は一年に一度、この時期に開かれている。

 オイラは五年前から参加し、連続して準優勝だ。おかげで〝シルバーコレクター〟という不名誉なあだ名で呼ばれたり「運だけの春日カスが」と揶揄されたり……踏んだり蹴ったりの一年間を過ごしてきたわけよ。


 今回は違う!


 聞いて驚くなよ?


「なんだかんだ言っても

逆境いつでもあたしは味方だって

ほんとにほんとにほんとにほんとに

びりーぶゆあせるーふ♪」


 今回のオイラには『URウルトラレア以上確定チケット』がある。このチケットを使えばはちゃめちゃに強いバディを呼び出せ――その前にそうか、ルールを説明したほうが親切だな。つい自慢したくなっちまった。失敬失敬。


「きみに差し出されたおしぼりを

横から奪取したーい

だってだって姫なんだもん

ちょっとぐらいゆるしてよねー」


 トーナメントはで参加しないといけない。

 このトーナメントが開催される前はそりゃあもう混沌としていて、あちこちでルール無用の天変地異ドッカンの戦いをしていたんだ。見知らぬクレーターがいつの間にかできていたもんよ。そしたら「こんな野蛮な戦いはやめましょう!」と言い出す連中が現れた。同族同士で潰し合うのはやめて、と。トーナメントで優勝した人間の願いは叶い、元の世界に帰される。

 回を重ねるごとにルールが増えていき、現在は召喚した人間に首輪が付けられるようになった。コンビを組む我々にはスイッチが渡される。スイッチを押すとその首輪はさっきのように爆発し、その人間は死ぬ。トーナメントで敗北しても死ぬ。元の世界では行方不明ってことになるんじゃあないか? 生きて帰りたかったら優勝するか、コンビを組んでいる参加者を拝み倒してリタイアするしかない。


 なお、参加者の側にも首輪は付けられている。こちらはりしゅうちゃんのゴキゲン次第で爆発してしまう恐ろしいものだ。さっきみたいに。


 召喚された人間は参加者に手綱を握られていて、参加者は運営サイドに管理されている。


 ま、考えようによってはライバルが減るんだからいいよな。

 要は「トーナメントが始まる前から戦いは始まっている」ってこった。


「言いたいことがあるんだよ!」


 間奏に入り、参加者は声を合わせる。

 ステージ上のりしゅうちゃんは「なになにー?」と聞き返しながら、。なぜか音楽は止まり、スタッフたちが顔面蒼白になって慌てふためき始める。アリーナ席がざわめいていた。なんだなんだ?


 ――オイラの居場所からはそういうパフォーマンスにしか見えなかったよ?

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