愛する人が目の前で爆破されそうになったらどうしますか? そうなる前になんとかしませんか?

 会場入りの時間までに先制攻撃でデウスをやっつけてしまえ作戦は失敗した。あんなロボットを引き連れているというのに、どこにも見当たらない。準決勝戦ともなるとタマゴ型トレーラーハウスもオイラたちの拠点を含めて4台しか設置されていないが、デウスの拠点であるはずのトレーラーハウスはもぬけの殻だった。そうこうしているうちに受付時間となってしまう。行かなくては。戦う前に失格負けは避けたい。作戦変更だ。


「ヨーセキ、行くぞ」


 声をかけると、渋々といった表情で「……はい。」と返してオイラの後ろに続く。これほど素直についてくる人間はヨーセキが初めてだ。第666回までに一度でも参加したことがあるならまだしも。いや、ありえない。召喚システムの原則として、一度召喚された人間がまた召喚された例はないはずだ。しかし今回から実装されたSRスペシャルレアさまなら、前例のない召喚の可能性はある。


「過去にこの『トーナメント』に参加したことはあるか?」

「いいえ。」


 違うらしい。まあ、この戦闘力ならURウルトラレア以上にふさわしいか。


「かつてオイラが召喚した人間でここまで冷静だった者はいない」

「部屋にあったルールブックを読みました。」

「ああ、あれ、……オイラが出ている間に?」


 隠しておいたのに。甘かったか。


「はい。」


 にしても、ではあるが、これ以上の詮索はやめておこう。次の相手はヒョーセツであり、デウスはこの準決勝戦でコンビの人間――今回は不運なことにヒョーセツ――を爆殺しかねない。優勝さえすれば元の世界に戻れるし、ヨーセキが望めば世界も元通りになる。ヒョーセツが死んでも、死んだ事実は帳消しされるだろう。


 その光景を目の当たりにしたヨーセキが立ち直れるかどうか。奮起していただかないとオイラとしては困る。優勝すればリセットされるんだから。

 オイラは今回で優勝するのだ。また降参なんかされたら六回目の銀メダルじゃあないか。それに、二位止まりでは死んだヒョーセツも浮かばれないってもんだ。


「よし、ここでギリギリまで待とう」


 会場。チェックインを済ませて、案内人に付き従い控室まで向かわなくてはならない。オイラは過去にも出場しているので、ご丁寧に案内されなくとも行き先はわかっている。会場への呼び出しはデウス側も同じタイミングだ。

 まだデウスがチェックインしていないのであれば、待ち構えていたらの子のことやってくるはず。と、オイラは会場の受付の前で仁王立ちする。オイラたちのチェックインは締切ギリギリでいい。チェックインしたら控室から出てはいけないが、チェックインする前ならこの場所にいても何のお咎めはない。


「おーおー、カロン!」

「シルバーコレクターのカロンだ!」


 参加者ではないがこの世界を訪れている者たち――観覧者がオイラを指差す。参加者と観覧者の出入り口は分かれているが、観覧者は出入り自由なのでこうやって野次馬根性丸出しでこっち参加者側に来るやつ。毎回いる。ウルトラオレンジのペンライトを持っているところを見るに、オイラのファンではない。あっちデウスのファンだ。


「サインならお断りだ」


 毅然とした態度で接すると「誰がお前のサインなんかもらってやるかよ!」やら「色紙がもったいねー」やら口々に言われてしまった。なんだとお。


「迷惑です。」


 ヨーセキが一喝すれば、観覧者は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。なんだよお。オイラより人間のほうが怖いってか?


「今のは、これから始まる準決勝戦でデウスが起こそうとしているを目当てにして来ている奴らだ」

「……。」


 なんとも興味のなさそうな顔をしているので、オイラが「デウスはコンビを組んでいる人間を毎回爆死させている。今回はヒョーセツを殺そうとするはずだ」と付け加える。


「阻止します。」


 目の色が変わった。ヨーセキの扱い方がわかってきたぞ。


「そうしてくれると助かる。デウスを倒したら、オイラがりしゅうちゃんに掛け合ってみるよ。ヨーセキが優勝したらヒョーセツと一緒に帰れないかって」


 参加者が倒れたら自動的に人間の首輪は無効化されるのだが、この事実をそのままヨーセキに伝えるわけにはいかない。この場でオイラを溶かしにかかるかもしれないからなあ。トレーラーハウスに置かれているルールブックを読んだって言ってたけど、確かあの本には参加者が死んだ場合のルールって書いてなかった、ような、そうだよな。自信がなくなってきた。真面目に読んだのも最初に参加した時ぐらいだし、参加者が死ぬケースがレアすぎて。


 んまあ、今は愛する妹ヒョーセツがこっち側に来ているってわかっているから、今すぐ犯行に及ぶほど短絡的じゃあないって思いたいけど、念のためね。


「はい。」


 しっかし、なかなかデウスが来ないな。

 おかしいな?


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