名状しがたい輝く三角錐

「わたくし、戦いたくありませんの」


 オイラカロンとヨーセキ、ちゃぶ台を挟んで、黒いヤギ頭の執事服シュブ=ニグラスと金髪縦ロールの女の子。会話を切り出しながらシュブに持たせていたアタッシュケースをちゃぶ台の上に乗せる。開く。


「降参してくださいませんこと?」


 はっはーん。買収かあ。腕力では勝てないから財力バトルときた。札束で殴りにきましたわよこの人たち。その手には乗らない! と断ろうとした隣でヨーセキが「いいえ。」とバッサリ言ってくれる。


「はい?」

「優勝しなければ帰れません。」


 ヨーセキは曇りなき瞳で答えた。

 少しの間でも眠れて、さらにはエアコンの効果で身体が冷やされた結果として導かれた答え。オイラの言葉を信じ込んでいる。刷り込みみたいだ。生まれたてのヒヨコが、最初に見た相手を親だと思うような。

 敵である少女からの「デタラメですのよ。あなたは降参すれば今すぐにでも帰れますの」の説得が続く。


「そうなんですか?」


 隣に座るオイラに訊ねてくる。召喚した人間に逃げられては困るオイラとしては「こちらのお嬢様は『トーナメント』の次の対戦相手である。ヨーセキに嘘をついている」としたり顔で言うしかない。嘘をついているのはどっちだろうなあ。わっかんねえなあ。


 良心の呵責?

 なにそれおいしいの?


「……」


 じとりとした視線でオイラを捉えるお嬢。このおっさんめ、とでも思っているんだろう。人間基準の見た目だけならね。

 オイラは優勝したい。ヨーセキも妹と再会するために優勝したい。二人三脚でゴールまで走り切らないといけないのだ。


「出て行ってください。」


 話はこれで終わりだ。さあさあ、帰った帰った。オイラも親切な対戦相手をしっしっと手で払う。ヨーセキは立ち上がって冷凍庫を開くと、左手でソーダ味のアイスを取り出した。


「ヤギ!」

「御意」


 どっちが召喚する側で召喚された側でどっちが使役する側で使役される側なのかわからないコンビめ! ――オジョウサンがヨーセキを指差し、参加者のはずの黒ヤギがバールのようなものを片手にヨーセキへ迫ってくる。実力行使で来た!

 参加者が相手の人間を攻撃するのはルール違反ではないにせよ、背中を狙ってくるのはブシドー的にどうなんじゃろか。


「迷惑です。」


 殺意に反応して振り向きざまに出力最大の【溶解】で

 やだあ、うちのSR強すぎない?

 一生今大会中ついていくわ。


「ほう」


 武器を無くしたシュプ=ニグラスは、今度は床から植物のツタを生やし始める。ツタはヨーセキの両足に絡みつき、動きを拘束した。


 コラァー!

 ここはオイラたちの本拠地なんだぞー!

 ……まあ、りしゅうちゃんにお願いすれば新しいトレーラーハウスがもらえるとはいえ。とはいえ!


「この世界で為すべきことがわかりました。」


 ヨーセキの言葉を耳にして「遅いな」と吐き捨てると、今度は天井から偃月刀えんげつとうを出現させる。その真下にヨーセキを拘束しているからこのままだと首を落とされそうなんですが、オイラ何かしたほうがいいかな。クトゥルフな相手に効果ありそうなものってなーんだ?


「対戦相手とやらを倒すことです。」


 降ってきた偃月刀の刃を溶かしてシュプ=ニグラスの立ち位置へ。シュプ=ニグラスは思わぬ反撃を胴体で受けてしまい、真っ二つになる。と同時にツタが消えた。やったぜ。今度はこの娘を本部に連れて行けばいいんだな! ええとお嬢様、お名前はなんとおっしゃいますの?

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