名状しがたい輝く三角錐
「わたくし、戦いたくありませんの」
「降参してくださいませんこと?」
はっはーん。買収かあ。腕力では勝てないから財力バトルときた。札束で殴りにきましたわよこの人たち。その手には乗らない! と断ろうとした隣でヨーセキが「いいえ。」とバッサリ言ってくれる。
「はい?」
「優勝しなければ帰れません。」
ヨーセキは曇りなき瞳で答えた。
少しの間でも眠れて、さらにはエアコンの効果で身体が冷やされた結果として導かれた答え。オイラの言葉を信じ込んでいる。刷り込みみたいだ。生まれたてのヒヨコが、最初に見た相手を親だと思うような。
敵である少女からの「デタラメですのよ。あなたは降参すれば今すぐにでも帰れますの」の説得が続く。
「そうなんですか?」
隣に座るオイラに訊ねてくる。召喚した人間に逃げられては困るオイラとしては「こちらのお嬢様は『トーナメント』の次の対戦相手である。ヨーセキに嘘をついている」としたり顔で言うしかない。嘘をついているのはどっちだろうなあ。わっかんねえなあ。
良心の呵責?
なにそれおいしいの?
「……」
じとりとした視線でオイラを捉えるお嬢。このおっさんめ、とでも思っているんだろう。人間基準の見た目だけならね。
オイラは優勝したい。ヨーセキも妹と再会するために優勝したい。二人三脚でゴールまで走り切らないといけないのだ。
「出て行ってください。」
話はこれで終わりだ。さあさあ、帰った帰った。オイラも親切な対戦相手をしっしっと手で払う。ヨーセキは立ち上がって冷凍庫を開くと、左手でソーダ味のアイスを取り出した。
「ヤギ!」
「御意」
どっちが召喚する側で召喚された側でどっちが使役する側で使役される側なのかわからないコンビめ! ――オジョウサンがヨーセキを指差し、参加者のはずの黒ヤギがバールのようなものを片手にヨーセキへ迫ってくる。実力行使で来た!
参加者が相手の人間を攻撃するのはルール違反ではないにせよ、背中を狙ってくるのはブシドー的にどうなんじゃろか。
「迷惑です。」
殺意に反応して振り向きざまに出力最大の【溶解】でバールのようなものを溶かしてみせる。
やだあ、うちのSR強すぎない?
「ほう」
武器を無くしたシュプ=ニグラスは、今度は床から植物のツタを生やし始める。ツタはヨーセキの両足に絡みつき、動きを拘束した。
コラァー!
ここはオイラたちの本拠地なんだぞー!
……まあ、りしゅうちゃんにお願いすれば新しいトレーラーハウスがもらえるとはいえ。とはいえ!
「この世界で為すべきことがわかりました。」
ヨーセキの言葉を耳にして「遅いな」と吐き捨てると、今度は天井から
「対戦相手とやらを倒すことです。」
降ってきた偃月刀の刃を溶かして掴むとシュプ=ニグラスの立ち位置へぶん投げた。シュプ=ニグラスは思わぬ反撃を胴体で受けてしまい、真っ二つになる。と同時にツタが消えた。やったぜ。今度はこの娘を本部に連れて行けばいいんだな! ええとお嬢様、お名前はなんとおっしゃいますの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます