36 討伐DAY90.

~特殊隊の寮~


「――何時も通り迅速な対応だな。ご苦労。立て続けで悪いが次の任務だ」


 ホワイトゴーレム討伐の報告をした後、俺達は再びダッジ隊長から新たな任務を言い渡された。次の討伐対象は“デザートサーベル”。砂漠に生息するタイガーの様なモンスターだ。


 その日はもう寮で休み、俺達は翌日任務に向け出発した――。


♢♦♢


~デザバレー街~


「――おう、よく来てくれたな! お前達とはルージュドラゴンの時以来か。ガハハハ!」

「ご無沙汰してます。ここは凄い暑いですねマスター」


 俺達を出迎えてくれたのはデザバレー街のマスター。此処には西の冒険者ギルドがある。

 

「今度は暑いね……」

「ああ。昨日と両極端過ぎる。暑い……」

「ガハハハ。昨日は雪山に応援していたらしいな。此処は逆に炎天下で暑いだろ!取り敢えず中に入れ、ガンガンに冷やしてあるからな。腹壊すなよ」


 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。


 ここはマジで暑すぎる。しかもマスターも豪快でちょっと暑苦し……おっと、それは失礼だ。マスターやSランクの人達は皆良い人ばかりなのに。暑さで頭がボーっとしているなこれは。


 それにしても、またもやニクスは大丈夫そうだな。寒さに強いのは分かるけど、暑さにも強いとは。まぁ一応炎だもんな。バーレーンなんか滅茶苦茶燃えてたし……。


 そんな事を思いながら、俺達は案内されたギルドの中で今回の討伐の件について話し合った。


「冷たい物でも飲んで行け!」

「ありがとうございます。それでマスター、今回はデザートタイガーの討伐って事ですよね?」

「ああ、そうだ。街から更に西に行くとバラサバラ砂漠があるだろう?そこを50㎞ぐらい行った場所でデザートタイガーの姿が確認されているんだ。

奴自体はSランクだがら討伐に問題はないんだがな、何せこっちは人手不足でよ。俺ともう1人のSランク冒険者も砂漠の反対側に討伐しに行かなくちゃいけねぇ。デザートタイガーが段々街に近付いてきているからそっちも早めに討伐しないと危ない。だから応援を頼んだ。宜しくな!

!」


 デザートタイガーなら確かに余裕だろう。昨日みたいな視界もまともじゃない状況に比べれば全然動きやすい。だが如何せん暑すぎる……。これはこれで意識が持っていかれそうだ。


「分かりました、任せて下さい! それと……関係ないですが、この暑さどうにかなりませんよね……?」

「ルカさん今度は暑いんですか?レベッカさんも?」

「「暑い……」」

「じゃあ私の聖霊魔法で涼しくしてあげますよ」


 えー!そっちも出来るの?是非お願いしますニクス様!貴方だけが頼りです。


 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にひんやりと涼しくなってきたではありませんか。


「もう大丈夫ですよ」

「凄い!涼しくなってる!」

「確かにな。確かに涼しい感じするけど……本当に大丈夫?」


 昨日と一緒の流れ。

 何度も言うが決してニクスを疑っている訳ではない。だがまさか本当にコレで暑さが無くなっているのかと疑問に思ってしまった俺は、確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。


「うお、熱くない!こりゃ快適だ!」

「だから言ってるじゃないですか!やっぱり信じてないんですね私の事!」

「私は何も疑ってないからねニクス」

「だ、だからズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」


 苦し紛れにそう言うも、ニクスは再び疑う様な目で俺を見ていた。


 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一旦別れて目的のデザートタイガーの討伐に向かった――。



~バラサバラ砂漠~


 デザートタイガーはSランク指定のモンスター。足場の悪い砂漠でも俊敏に動き回る奴だ。鋭い牙には毒があるから、それだけ気を付ければ特に危険はない。それよりも、砂漠と言うのは一面砂で目印がほぼない。俺達は飛んで移動してるからいいけど、ここを歩くのはかなり大変だ。


「――お、いたぞ」


 砂漠の真ん中にポツンと存在するオアシスで水を飲んでいるデザートタイガーを見つけた。


<アレは犬と変わらん。寮で他の者達と訓練していた方がマシだ>

「じゃあ今日は私が倒していい?」

「勿論どうぞ」


 レベッカが申し出てくれたので今回はレベッカに任せよう。飛んでいた俺達は下に降り、早速レベッカが魔法を放った。


「よーし、“エアロウイング”!」


 次の瞬間、強烈な風が吹き荒れ、大きな風の刃が複数同時にデザートタイガーを襲った。


 ――ビシュン!ビシュン!ビシュン!ビシュン!

 四方から撃たれた風の刃によってデザートタイガーは一撃でその場に倒れた。レベッカも結構強くなってるな。

 

「やった。いい感じに決まった」

「凄いですレベッカさん!」

「大分コントロール上手くなってるな」

「そうでしょ? クレーグに改造してもらった武器も凄いしっくりくるんだよね」

「良かったな。それじゃあ取れる素材を回収して、ギルドに戻るか」


 デザートタイガーを討伐した俺達は何時もの如く、慣れた手つきで使える素材を回収しギルド戻った。だがその途中、Aランクモンスターである“スナスネーク”の群れを見つけた俺達。


 別に討伐の目的ではなかったが、レベッカが何やら試したい魔法あるとか言い出し為、再び下に降りた。


「何する気だ?」

「フフフ。だから言ったでしょ、ちょっと試したい技があるの」

 

 特殊隊の影響だろうか……。あそこは毎日の様に誰かが訓練しているから、その影響が少なからずレベッカにも出ているのかもしれない。勿論悪い事ではないし、俺の気のせいならいいのだが、以前に比べて少し好戦的になっている気がしなくもない――。


「上手く出来るかな……。“エアロ”! そして“フレイム”!」


 レベッカは風魔法と炎魔法を同時に発動させた。目の前の風と炎が互いにどんどん交わりながら勢いを増し、みるみるうちに巨大な玉が出来上がった。


 へぇ、これはなかなか。しかも……。


「……そして“バフ”!」


 風と炎の同時発動に加え、レベッカは出来上がった巨大な玉に更に付与魔法を加え火力を上げた。


<ほお。3魔法同時とは、やるではないかレベッカ>

「ジークちゃんに褒められるなんて嬉しい!」


 滅多に認めないジークからの誉め言葉に、レベッカは本当に嬉しそうだ。そしてその喜びのままレベッカはスナスネークの群れに巨大な玉を撃ち込んだ。


「よし、それじゃあ今度こそギルドに戻ろう」


 こうして、俺達はギルドに戻りマスターとも合流した。報告と別れを済ませ、最後は特殊隊に帰りダッジ隊長にも報告。これが何時もの流れだ。





 だがしかし――。


 それからというもの、俺達は任務の報告をする度に直ぐ次の任務を言い渡され翌日には出発すると言う鬼スケジュールがかれこれ3ヶ月は続いたのだった――。




「――ダッジ隊長!流石に限界です!休みを下さい!」


 俺はこの日、遂にダッジ隊長に盾突いた。


「何ですかこの激務は! ほぼ毎日Sランクモンスターの討伐ですよ!1週間に1日休みがあるかどうかです!レベッカもニクスも疲れ切ってもう限界ですよ!だから休みを下さい!」


 俺は隊長の目の前のデスクをバンバン叩いて抗議した。だってここ3ヶ月は本当に扱いが酷い!


「大声で言わなくても聞こえている。今は“別件”で他の隊員が動いているからな。たまたまお前達に任務が集中しただけだ」

「でもだからって過労で倒れますよこっちは!」

「じゃ休んでいいぞ」

「え……?」

「嫌なのか? じゃあ次のッ……「欲しいです!欲しいに決まってますよ!何言ってるんですか!」


 こうして抗議の甲斐あってか、俺達は1週間のリフレッシュ休暇を貰う事になり、俺達は久々の休みを堪能した――。

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