25 国王特別特殊任務隊

~宿~ 


 遂に決闘が終わった俺達は、闘技場を出て宿へと戻っていた。そしてまだあの大歓声の余韻に浸りながら、俺はレベッカに国王団の事を相談した――。


「私はOK! 全然大丈夫。ルカと一緒に組めるなら何でもいいよ!」

<やっと強いモンスターと戦えるのならば受けるしかないな>

「あー、意外とそんな感じね……」


 今しがた国王から誘われた国王団の話をすると、意外にもレベッカもジーク乗り気だった。どうしようかと少しでも悩んでいた俺がなんだか馬鹿らしい。


 正直、国王団の話は予想外だったがとても嬉しい。実力を認めてくれた事もあるけど、やっぱそれ以上に俺達の目標への力強いサポートだからというのが1番。国王団の討伐や依頼なら、今まで以上に強いモンスターを多く倒せるだろう。


「それじゃあ本当にいいんだな? 国王団に入るって事で」

「うん」

<無論だ>


 こうして、俺達はあっさりと国王団の話を受けた。

 翌日には騎士団を通して国王に伝えてもらい、俺達は1度家に帰った。



♢♦♢


~ルカの家~


「――ルカが国王団にねぇ……。凄い話じゃねぇか本当に」

「ジャックさんには何から何までお世話になりまくってます本当に」


 あれから数日。

 国王団に入る事を決めた俺は、家の荷物をまとめて再びネオシティに出発する事になった。今まで住んでいた家はジャックさんが管理しつつ住んでくれる事に決まり、今こうして家の明け渡しを行っているんだ。


「まぁ別に近いからいいよな」

「そうですね。母さんの墓参りもしたいから定期的に顔出しますよ」

「そうか。取り敢えず頑張ってこい。ジークリートの力がありゃ余裕だと思うけどな。レベッカも頑張れよ」

「はい!ありがとうございます」

「じゃあすみませんが家宜しくお願いします」

「ああ」


 俺達はジャックさんに暫しの別れを済ませ、冒険者ギルドにも向かった――。


~冒険者ギルド~


「――あ、ルカさん! もう行くんですか?」


 ギルドに入るなり、俺を見つけたマリアちゃんが寂しそうに声を掛けてきてくれた。


「そうなんだ。もう出るからギルドの皆にも挨拶したくて。マスターいるかな?」

「勿論。マスターも他の皆さんも待ってますよ! お部屋へどうぞ」


 マリアちゃんに促され、俺はマスターの部屋に通された。するとそこにはマスターとフリードさん。それにリアーナさんとバルトさんまで集まってくれていた。


「わぁ……皆さんお集まりで……。なんか却って気を遣わせてすみません」

「何を言ってるんだよ水臭い。ルカ君の大事な門出だろう」

「そうよ。ドルファンはクエストで来られないけど、貴方に宜しく伝える様た頼まれているわ」

「頑張って来いよルカ!」


 俺なんかの為に、こんな多くの人がわざわざ動いてくれている。その事実や皆の言葉が改めて有難さを感じさせてくれた。ここにいる人達や他の色んな人達のお陰で今の自分があるんだ――。


「ルカ君、レベッカ君。君達のその力を……冒険者としてのその実力を、これからはより多くの者達の助けとして奮闘してくれる事を期待しているぞ!

何かあったら私にも声を掛けてくれ。出来る限りの事はこれからもさせてもらうからね」


 マスターはとても暖かい表情でそう言ってくれた。マスターにも本当にお世話になった。なりっ放しだ。俺とジークの事を守ってくれて、普通の冒険者として生きていける様色々と動いてくれた。それはきっと俺が知り得ない以上に大変で労力が掛かっていただろうに、マスターは決して俺の前で嫌な顔1つ見せなかった。


 鬼の様な形相は1度目にしたが……。


 あ、そう言えばまだこの剣のお礼を言っていない。


「マスター。何から何まで本当にお世話になりました! ありがとうございます!この剣も大切に使わせてもらいます!」


 マスターには頭が上がらない。感謝してもし尽せないよ。


「いやいや。これじゃあまだまだ“恩返し”には事足りんよ――」

「恩返し……? 全然そんな事ないと思いますけど……?」


 マスターが俺に恩返しって……可笑しくないか……? 俺何もしてないぞ。寧ろこっちが恩返ししまくらないといけないぐらいだ。


「ハハハ。まぁそれよりも、国王団での活動はきっと大変なものだと思うが、君達ならば乗り越えられるだろう。何時でも帰っておいで。活躍を期待しているぞ――!」

「「はい!」」


 こうして、俺達はギルドを出発し、国王団のあるネオシティに向かった。



♢♦♢



~王都ネオシティ・国王団基地~


 国王特別特殊任務隊――。


 国王団の基地へと訪れた俺とレベッカは、事前に伝えられていた通り国王直属の国王団……“国王特別特殊任務隊”に配属された――。


 この隊に命令権があるのは勿論国王のみとなっているそうで、他のギルドや組織の命令は受け付けないそうだ。そして俺達が配属されたこの隊には現在、俺とレベッカ以外に8名のフリー冒険者が所属している。


 ここにいる冒険者達は俺とレベッカの様に特殊な力を持っているらしく、皆相当の実力者だそうだ。


 そして、特殊隊は何時でも動ける様に基地内の寮に入る決まりとなっている。


 これに関しては俺とレベッカも全く問題ない。レベッカとの共同生活は楽しかったし不満もないけど、以前の様な物騒な事もまた起こり得るし、つい先日も“ハプニング”に襲われたからある意味寮は丁度良かったのかもしれない。お互いに……。


 だって“あれ”は大事件だ――。

 思い返しただけでヤバい……。もうレベッカに絶対“酒”は飲ませない方がいい。俺も羽目を外して幾らか飲み過ぎた……。間違いが起こらなくて本当に良かった。


 基地の中を見渡しながらそんな風に思っていると、基地の入り口で待機していた俺達の前に、1人の男の人が現れた。


「……待たせたな。お前達がルカ・リルガーデンとレベッカ・ストラウスか。

俺はこの特殊隊の隊長であるダッジ・マスタング! これからお前らの上官となる。命令は絶対だからそのつもりでいてくれ――」

「「宜しくお願いします!」」


 凄ぇ威圧感だな。これが俺達の隊長となるダッジさんの第一印象。


 ぱっと見ただけでも190㎝はあるであろう長身と、盛り上がった色黒の屈強な筋肉。それに相まってスキンヘッドとサングラスがより威圧感を醸し出している……。


 見た感じそのままの感想を言おう……。怖い――。


「よし。じゃあこのまま寮に案内する。国王団は所属ごとに建物が分かれている。お前達はそっちの建物だ」


 ダッジ隊長に説明されながら基地内を歩く事数分、俺達が入る特殊隊の建物に入った。すると直後にダッジ隊長が大声で誰かを呼んだ。


「おいクレーグ!」

「は、はいッ……! ってあれ、もしかしてもう新人ですか?」


 クレーグと呼ばれた男の人。ダッジ隊長に呼ばれるなり慌て様子で姿を現した。彼の周りのテーブルには、何やら幾つもの武器が散乱している。


「あれだけ時間守れと言っておいただろうが。毎度毎度武器ばっか改造しやがって」

「シッシッシッ、すみません。どうも周り見えなくってしまって」

「全くお前は……。もういいからこっち来て挨拶してくれ。今日から入る新人だ」


 ダッジ隊長に促され、その男の人はゆっくりと俺達の元に近付いてきた。


「僕はクレーグ。この特殊隊で副隊長やらせてもらってます。武器が大好きでずっと弄っているから、武器の事で何かあったら何時でも聞いてね。よろしく!」

「俺はルカ・リルガーデンと言います。一応体の中にモンスターを召喚してます。宜しくお願いします」

「あ、私はレベッカ・ストラウスです。魔法使いでえすが、魔力イーターという特殊体質を持っています。宜しくお願いします」


 俺とレベッカの自己紹介を聞くなり、副隊長のクレーグさんは急にニコニコ割り出した。


「うは~、こりゃまた凄く面白い人材を仕入れてきたみたいだね」


 ちょっと変わった人みたいだけどとても優しそうだな。ダッジ隊長マジで怖いから何かあったらクレーグ副隊長に言おうかな……。


「俺はまだ作業が残っているから後は頼むクレーグ。他の奴らにも紹介してくれ。後“遊び”は程々にしておけよ。初日だからな」

「了解です、任せて下さーい!よし、それじゃあ皆のところに行こうか」


 そう言うと、クレーグさんはテーブルに置かれた長剣を徐に手にすると、「こっちこっち」と案内を始めてくれた。


 うん。可笑しいだろ。


 その長剣を手にした事もそうだが、その前のダッジ隊長の“遊び”というワードも引っ掛かる。そしてまたややテンションが上がった様に見えるクレーグさんも怪しい。


 まぁ何となく察しは付くけどな――。


 “同じ様な事”をマスター達にもやられたし――。


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