14 捨てれば捨てられる

♢♦♢


~冒険者ギルド~


 リアーナさんの依頼を達成した俺達はギルドに戻った。

 受付のマリアちゃんに「特に変わった様子は無かった」と調査結果を報告していると、突如ある男がレベッカに声を掛けてきた。


「――おい、レベッカ! お前Sランクになったと言うのは本当か?」


 ニヤニヤしながら急に現れたこの男。何処かで聞いた事のある声だと思ったら、レベッカの元パーティの奴だ。話し掛けられたレベッカも一瞬で不快そうな顔つきになっていた。


「何ですか?」


 口調と雰囲気から怒ってるのが分かる。

 そりゃそうだ。レベッカに幾らか非があるとは言え、あんな場所で急に捨てられたんだからな。


「それが本当ならパーティーに戻って来い! 歓迎してやるぞ」

「……結構です」


 馬鹿なのかこの男は……。自己中にも程がある。不愉快だな。


「ガハハハ! そんな奴とパーティー組んだって良い事ないだろ。俺達はAランクパーティなんだからよ」

「例え貴方達がSSSランクでも私は戻りません。そもそもそういう問題じゃないんです。私はルカとしか組みませんから、もう話し掛けないで下さい」


 おー。凄い怒ってるなレベッカ。こんなに怒れる子なんだ……。って言うか俺としか組まないってヤバいな。嬉しくて思わず顔が緩みそうだ。


「なんだお前ッ! 急に偉そうになりやがったな! 強気な女も嫌いじゃない。リーダーの俺が戻って来いって命令してるんだから大人しく戻れよ!」


 ――ガシッ……!

「……⁉」


 男がレベッカの腕を掴もうと手を伸ばしたが、俺はそれよりも早く男のゴツイ腕を掴んでいた。


「てめぇ、何レベッカ触ろうとしてるんだコラ――」

「あぁ?」


 気が付いたら反射的に手が出ていた。今更引っ込める訳にもいかないし、そのつもりも毛頭ない。


「俺のパーティに手を出すな」

「お前には関係ねぇだろうがッ! 離しやがれ!」


 怒る相手に対し、俺も相当怒っているが妙に落ち着いた気分でもあった。

 男は俺が掴んでいる手を思い切り振り払うと、再びレベッカへと手を伸ばした。


「<――触るんじゃねぇ>」

「「……ッ⁉⁉」」


 男の態度にキレた俺は、無意識にジークの覇気を放っていた――。


 簡単に言えばこの力は竜神王ジークリートの“威圧”。コレを向けられた相手はその圧倒的な威圧から恐怖が生まれ、動けなくなるのだ。


 凄い力業だから余り好きじゃない。滅多に使わないし、人に向けたのも始めてだ多分……。案の定、俺より遥かに図体のデカいこの男も全身が震えている。


「あ、あぁ……⁉」


 俺を見ながらどんどん顔も青ざめていく。

 ジークの覇気の影響を受け、コイツだけでなく周囲にいる者達にも影響が出てしまっていた。


「次レベッカに手を出したら殺す――」


 最後に一睨みしながら奴を脅すと、男は膝から崩れ落ちその場で失禁したのだった。


「ル、ルカ! もう私は大丈夫だから、ね、落ち着いて……?」


 無意識に周囲に覇気を放っていた俺だったが、レベッカには向けていなかった様だ。1人だけ無事であったレベッカがそっと俺の手を掴み鎮めてくれた。


 彼女の温もりによって俺もハッと我に返った。



「あ、ああ……ごめんレベッカ。大丈夫か?」

「私は大丈夫! ルカももう平気?」


 微笑みながら言うレベッカを見て、俺は一瞬我を忘れてキレてしまった事に急に恥ずかしさが生まれた。


 しまった。コイツだけならまだしも、関係ない人にまで影響を与えてるじゃないか……。何やってんだよ俺!


「俺も大丈夫だ。ありがとう」


 一先ず事なきを得た様だが、この雰囲気は余りにも気まずいな……。

 そんな事を思っていた俺に救いのヒーローが現れた。


「――よーし、ここらでお開きだ。皆自分のクエストに集中してくれ! それと漏らしてるお前! 事の経緯は見させてもらった。取り敢えずマスターに報告するからこっち来い」


 場を何時もの雰囲気へと戻してくれたのはジャックさんだった。

 ギルドにいた人達をそそくさと促し、まるで今の出来事が無かったかの如く対応してくれた。


「ありがとうございますジャックさん! なんとお礼を言えば良いか!」

 

 思わず俺はジャックさんにハグしながらお礼を言った。


「止めろ、くっ付くな。それにルカ。お前もマスターの所に来い。横のお嬢ちゃんもな」

「え、俺達もですか――?」



♢♦♢


~マスターの部屋~



 取り敢えずクエストの報告と処理を終えた後、俺とレベッカはジャックさんに言われた通りマスターの部屋に訪れていた。


 そして、部屋に入るなり何故か4人の者達がマスターの前で正座をしていた。コレは何か見てはならぬものを見てしまったのでは……と思いながら恐る恐る部屋に入り状況を確認すると、正座していた1人はさっきひと悶着あったレベッカの元パーティのリーダー男だった。


「――先ずはリアーナの依頼を受けてくれてありがとうルカ君。それにレベッカ君もね。その話を聞きたい所だが、先に“こっち”を処理しようか」


 マスターはそう言うと、俺達をソファへと座るよう促した。


「疲れている所申し訳ないね。早速だが、レベッカ君……。もし嫌でなければ、君がパーティーから外された時の事を詳しく聞かせてほしい。


彼らから聞いた話だと、何やら君が魔力を吸い取った後に、勝手に森の奥へと走っていなくなってしまい、姿が分からなくなったと言っておるのだが……。コレは事実かな?」


 成程。さっきのひと悶着でレベッカの元パーティの奴らが事情聴取でもされたのか。そしてその事実を確認する為に俺達も呼ばれたと。


「いえ、違います……。確かに皆さんの魔力を吸い取ってしまいましたけど、私は自分で走り去ったのではなく、森の中で突如追放されてしまい、あのばに置いて行かれました……」

「成程ね。では、今しがたの受付前の騒ぎはどういった経緯だったかね? 分かる範囲で聞かせておくれ」

「あ、はい。私とルカがクエストの報告をしていると、当然彼にパーティーに戻って来いと言われました。なのでお断りをしたら無理矢理腕を掴まれそうになり、それをルカが止めてくれたんです」


 マスターはジャックさんに「事実かね?」と目配せで確認を取る。


「そうですね。それにさっきこのお漏らしを連れて行く際、気が動転していのか知りませんが、彼女を力尽くで自分の女にするつもりだったとも呟いていましたよ」


 覇気の影響で意識が朦朧としたのか、ジャックさんの言葉に男は目を見開いて茫然としていた。


「成程成程。ではルカ君は仲間を助けようと“力を使った”訳だね?」

「はい……すみません」


 俺は何故か謝っていた。

 マスターの何処か棘のある言葉が無意識にそうさせたのだろう……。だが今回は俺も悪い。無暗に人に使う力ではないんだから。


「うむ、よく分かった。それでは“処分”を言い渡そう――」


 マスターは突如冷たくそう言い放った。


「君達はメンバー全員、このドラシエル王国より追放とする。金輪際王国に立ち入る事を私が許さない」

「そ、そんなッ……⁉」

「そしてルカ君――。

君は仲間の為とは言え、不用意に関係ない者達にまで危害を加えた。よって1週間の謹慎処分を言い渡す」

「……分かりました」


 これでも罰にしては軽過ぎる。俺は無関係の人を傷付けてしまったんだから……。今回の事は猛省しなくちゃいけない。


「王国から追放なんて噓ですよね⁉」

「そ、そうですよ! 私には普通に家族がいます……!」

「責任はリーダーのコイツ1人だろう!何故俺達まで⁉」


 当たり前かの如く、レベッカの元パーティの奴らは納得していない。


「ハハハ、面白い事を聞く者達だ。自分が捨てたのならば、それはまた自分も誰かに捨てられるという事だ。

逆に何故自分達は捨てられぬと思った?勘違いも甚だしい。私の管理下で最も重い罪は、仲間や家族を裏切り見捨てる事だ!そんな奴らは冒険者を名乗るでないッ!

当たり前の事が出来ぬ自己中な冒険者など、いればいる程迷惑でしかないわ――」


 マスターの言葉に、もう誰も反論する者はいなかった――。




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