~第2章 門出と仲間~

15 まさかの国王から依頼です

~冒険者ギルド~


 レベッカの元パーティがドラシエル王国から追放されて早3ヶ月が経っていた――。


 俺は1週間の謹慎期間が終わった後、再びレベッカとクエストを受け続ける日々を送り、これ以上なく順調にパーティランクを上げていった。

 

 その一方で、どうやらグレイ達はクエストを失敗し続けているらしいと小耳に挟んだが、やはりもう何とも思わなかった。



「――そう言えばルカのパーティーもうAランクに上がったってよ」

「マジで⁉ つい最近Bに上がったばかりじゃ……?」

「やっぱりSSSランクの実力は本当なのかも」

「確かにな。ルカが抜けた途端グレイのパーティーはAランクに落ちしたらしいし」

「その情報古いわよ。グレイ達は今Bランクだから」


 ギルドの食堂でもこの話題で持ちきりだったとさっきレベッカが言っていた。


 あれからグレイ達の姿を見掛けていないが、どうやら原因はそれも関係しているんだろう。プライドの高いグレイの事だから、心中穏やかじゃない状態だと手に取る様に分かる。


 この間見かけた時もなにか揉めていたみたいだし、パーティランクも落ちて皆イライラしてるんじゃないかな……?


 まぁ俺には関係ないしどうでもいいんだけど、流石Bランクまで落ちてしまうとクエストを受けなきゃ生活も出来ないだろう。Sランクなら1回のクエストで暫く困らない報酬を受け取れるけど、最近失敗してるみたいだし貯金もほぼない筈。


「――ま、そんな事どうでもいいか」

「何がどうでもいいの?」


 俺が無意識で呟いた独り言をレベッカに聞かれてしまった様だ。


「いや、何でもないよ。ただの独り言」

「そう? ならいいけど」


 何時ものようにクエストを受けるべくレベッカと話していると、突然後ろから誰かに声を掛けられた。


「君達がルカ君とレベッカさん?」

「「――!」」


 振り返ると、そこには1人の男の人がいた。

 金色の髪がさらりと伸び、とても端正な顔立ち。まるで貴族や王子のような外見をしたイケメンのお兄さん。


 そう。この人はドラシエル王国に住む者なら誰でも知っている有名人。Sランク冒険者のフリード・スターマンさんだ――。


「あ、貴方はSランク冒険者の……」

「フフフ。僕を知っていてくれて光栄だが、君がルカ君とレベッカさんで間違いないかい?」

「はい、そうですけど……」

「やっぱりそうか。じゃあ“コレ”どうぞ」


 そう言って。フリードさんは俺に封書を渡してきた。裏を見ると宛名は確かにルカ・リルガーデンとレベッカ・ストラウスと、俺達の名前が記されていた。


 封をしているラベルを何気なく確認すと、そのラベルには見覚えのある紋章が描かれていた。


 大きな盃と剣。そしてドラゴンがあしらわれたこの紋章は……。


「それ“国王”からの招待状だから――」

「「え……?」」


 やはりそうだ。見覚えがあるも何も、コレはドラシエル王国の紋章だ。見た事あるのは当然。寧ろあり過ぎて逆に直ぐ吞み込めなかった。しかも国王からなんて余計に理解不能だ。


「国王からですか⁉」

「なんで俺達に……」

「え、君達マスターから聞いてないの? 2人はマスターの推薦で、国王が毎年開催しているモンスター討伐隊に参加する事が決まっているんだよ。

ほら、ギルドの案内板にも大きく張り紙がしてあるだろう」


 そう言って指を差すフリードさんの先には、確かに案内板と“モンスター討伐隊募集”という文言の張り紙がしてあった。これは毎年開かれる、王国でも大きな行事の1つ。


 王国の行事だからしっかりと報酬は出るものの、通常のクエストよりも報酬は少ない。確かにモンスターを討伐する大事な行事ではあるが、誰でも参加出来る言わば一種のお祭りの様なものだ。


 その為参加者もそれ程多くはない。危険な討伐という訳でもないからただ経験を積みたい冒険者や王国の騎士団に入りたい者が率先して参加する。


「参加する事が決まったって……え?強制ですか?」

「そう。招待状は確かに渡したし、出発は明後日。だからしっかり準備しておいてね~宜しく」


 フリードさんはそう言って風のように去って行った。


「おいおい、嘘だろ……」


 フリードさんがこんな冗談を言いに来る訳ないと分かってはいるが、俺は一応開封して中身を確認した。すると、よく見れば恐らくこれは直筆……。まさか国王がわざわざ? しかもちゃんと討伐に参加と書かれているし。


「これはまたややこしい事になったな……」

「本当に参加なんだね」

「マズいぞレベッカ……。討伐に参加するまでに魔力コントロールを完璧にしないと」

「あ、そうだ! え……ちょっと待って、でももう時間が……!」

「それは分かってるけどやるしかない。なにせ国王直々の招待だからな」


 こうして、突然の招待により討伐に参加する事になった俺達は、何よりも先ずレベッカの魔力イーターの力のコントロールに専念した。


♢♦♢


~訓練場~



<詰めが甘い。魔法を放つ最後までするんだレベッカ>

「ごめんなさい!もう1回お願い致します!」

「余所見するなよルカ!」

「あ、はい!すみません!」


 ここはギルドの訓練場。マスターに頼み、特別に俺達の貸切にしてもらった。理由は勿論レベッカの魔力コントロール……の筈だったが、何故か俺もジャックさんに訓練されている。


 何で?


「ほら、集中しろってルカ!」

「は、はい!」


 どのタイミングだろう?気が付いたら既にこうなっていた。

 討伐隊に参加する事になったのもあるが、どうせならと、まるで暇つぶしの如く俺の訓練が始まった気がする。


 レベッカの訓練には確かに魔力の高い人達がいた方がいい。ジャックさんみたいなSランクなら多少吸われても問題ないし、いればいる程レベッカの訓練には持ってこい。


 だが今はいればいるだけ余計だ――。


 俺がジークを召喚したと知ったSランク冒険者の皆々様が物珍しそうに俺を攻撃しているからな!


 くそ……。ずっとジークの事を言えずに悩んでいた時期が馬鹿みたいだ。マスターやジャックさんは然ることながら、他のSランク冒険者の人達は皆ジークの話を聞いて驚くどころかあっさり受けれたそうじゃないか……。


 ある意味反応も実力もグレイとはまるで違う。これがSランク冒険者の実力か……。まぁ恐ろしく思うと同時に、心の何処かで嬉しさもあるのが正直な気持ち。


 だがしかし!

 今のこの特訓はあんまりだ!

 レベッカより俺の方が酷いじゃないか!


「ちょ、ちょっと待って下さいよ!ジャックさんもリアーナさんもッ!それにフリードさんも会ったばっかりですし、ドルファンさんに至ってはまだ数十分前に初めましてなんですけどッ……!」

 

 そう。

 今まさに俺に攻撃を仕掛けているのは4人の猛者達。ジャックさんとリアーナさんは何時かの最終テストでも同じような目に遭わされたが、フリードさんとドルファンさんはまだ会ったばかり。しかもこっちの2人はジークの力を見たいという物珍しさだけで攻撃してきている。


 何なんだこの人達は……。


「本当にジークリートの封印を解いたとは」

「ジャックばかり攻撃していないで、僕にもやらせてくれよ」

「ダメだ。ルカは俺の弟みてぇな存在だからな。俺が1番に攻撃する」

「私も試したい超上級魔法があるので、次は変わって頂きます」


 意味が分からん――。


 もう1度言っておこう。アンタ達、マジで意味分からん事を言ってるぞ。


「じゃあ間を取って全員好きに攻撃すると言う事でいいね?」

「「OK!」」

「何もOKじゃないですよッ⁉ 頭大丈夫ですか⁉」


 お世話になっているジャックさん達に思わず暴言を吐いてしまった。だがこれは俺が正しいと思う。マスターがレベッカの訓練に付きあってるのがマジで不幸中の幸い。ジークもレベッカの方に魔力を集中させてるから何時もより俺はしんどい気がする……!


 しかもフリードさんはSランクの中でもトップの実力。マスターの次に強いんだぞ。ドルファンさんだって当たり前の如くな。これは本当に止めないとヤバい。


「皆さんちょっと落ち着いて下さッ……「――“唸れ、エクスカリバー”!」

「“炎の一閃イグニス”!」

「“土蛇の捕食ソイルスネーク”!」

「“絶対聖氷コールド・ゼロ”」



 俺の思いも虚しく、アホみたいな超攻撃魔法が同時に放たれた――。

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