12 溢れる涙

 レベッカとの思いがけない出会いから早くも1週間――。

 今日も特別変わった事がない1日。この生活にもお互い少しは慣れただろう。レベッカが寝たのを確認した俺は、自分の部屋のベッドでの転がりながらジークと話していた。


「――へぇ~、じゃあやっぱレベッカの魔力イーターってかなりレアな体質なんだな」

<ああ。レベッカのそれは我らモンスターにとっても厄介であるな。まぁレベッカの場合はまだ自身でコントロール出来ていない上に、本来の魔力がそもそも多い。それで余計に手間取っているのであろうな>

「そうか……。常に魔力を吸い込んじゃうって大変だよなきっと。魔力のコントロールさえ出来れば多少は解決になるのか?」

<それは当然だな>


 成程ね……。だったら次のクエスト行く前に、少しでも練習した方がいいな。訓練場は他の冒険者がいるから使えないし……。


「どっか場所ないかな?」

<……>

「ん、聞いてるかジーク」

<……>

「おい、どうしたんだよ急に黙りッ……「――ルカ?」


 空けていた部屋の扉の隙間から、レベッカが俺の名を呼んだ。


 あれ、起きたのか。やばい……。まさか今の聞かれてた?


「なんだレベッカ、起きてたのか」

「うん、ちょっと喉が渇いちゃって。それよりルカ、今誰と話してたの?」


 おっと、やっぱり聞かれていたか。別にいいと言えばいいんだけど……。どうしよう。


「気のせいじゃない? ほら、 俺以外部屋に誰もいないし」

「嘘だ」


 一応扉を開いて部屋の中を見せたけどダメみたいだな。完全に疑ってる。


「ねぇルカ、確かにまだ出会って数日しか経っていない関係だけど、嘘はつかないでほしい」

「レベッカ……」

「私はルカとパーティーだよね? 話したくない事があるなら無理には聞かないよ。だからそれならそうだとちゃんと言ってほしい。嘘や誤魔化しは嫌なの……」


 しまった……。コレは滅茶苦茶正論で言葉が出ない。自分でもお互いに裏切りは止めようって約束したもんな。確かに今のは俺が悪い。


「ごめんレベッカ……。俺が悪かったよ。でも決して君を失望させようと思ったわけじゃないんだ……」

「分かってるよ。ただ正直に言ってほしかっただけ」

「そうだよな。じゃあこんな時間で悪いけど、今から俺の秘密を聞いてくれ」

「え……? 」


 レベッカなら話してもいいと思えた。

 いや、寧ろレベッカには聞いてほしかった。彼女の事も知りたいし、俺の事ももっと知ってほしいと思ったんだ。


「眠いなら明日でも大丈夫だけど」

「何よ急に。気になって逆に眠れないよ」


 俺はリビングへとレベッカを促し、暖かい飲み物を入れた後、静かに口を開いた――。


「実はさ、俺体の中にモンスターがいるんだ……」


 自分でも凄い話の切り口だと思う。案の定レベッカも目を見開いて驚いているし。そりゃそうだよな。俺達冒険者はモンスターを討伐するのが最重要目的なのに、そんな奴が事もあろうかそのモンスターを体に宿してるんだから。


 あー、やっぱ言わなきゃ良かったかなぁ。僅かな間が永遠にも感じる……。


 どうしよう。これで怖がられたり拒絶されたら……。それはまた結構ショックだな。前回は立ち直れたけど、何か今回はもう無理そうだ。


「そうだったんだね……」


 飲み物を一口飲み、レベッカはグラスをテーブルに置きながらそう呟いた。


 おいおい、コレは一体“どっち”の反応だ? やっぱり怖がられたッ……「だからそんなに強いんだルカは!」


 え……?


「これで納得しちゃったな~。私の特異体質も効かないし、魔力量も凄い。それにルカは魔法使う時に魔力がキラキラキラ~って輝いているもんね! それも全部モンスターの力って事なんだ!」

「あ、ああ……まぁ」


 予想外の反応に俺の方が驚きを隠せない。


「凄いね!モンスターを宿して戦うなんて何か格好いいよね」

「え、そう……? って言うか、怖がったりしないの? と言うかまず信じてくれたの……?」

「フフフ、何言ってるのルカ。全然怖くないし、信じるに決まってる。それにこの状況で冗談言えたらある意味凄いよ」


 レベッカはそう言いながら、何時ものあの笑顔を見せてくれた。


「ハハハ……。ごめん、俺もジークの事自分から話して信じてくれたのレベッカが始めてだからさ、ちょっと驚いてる」


 グレイに話した時は信じて貰えなかった。ジャックさんとマスターには先に気が付かれていたし、それ以外の人に話したこともなかった。


「なぁんだ、もっと言いづらい事情でも抱えてるのかと思ったよ。実は私が美人過ぎて緊張するから寝られないとか!」

「何だそれ。絶対自分で言わない方がいいぞ」

「え、それはちょっと失礼!」

「じゃあ何て言えばいいんだよ。ハハハ」


 照れ隠しで精一杯。確かにレベッカは可愛いよ。だけど当然そんな事は言える筈もない。そして俺のこんな話しを受け入れてくれた事が凄く嬉しくて、凄く照れ臭くて……。


 今はちょっと素直になれないんだ――。


「それにしても、俺の魔力ってキラキラしてるの?」

「してるよ。凄いキレイ! そう言えばさ、さっきジークって言ってたけど、もしかしてそれモンスターの名前?ルカの体に何がいるの?」

「いいかレベッカ。教えるけど嘘じゃないからな。俺の体にいるのは……あの竜神王ジークリートなんだ――」

「え、竜神王って……あの伝説の⁉ あんなのが本当にいるの……⁉」

<“あんなの”とは無礼だな――>

「わッ⁉ なに⁉」


 レベッカの言葉に反応したジークが会話に入ってきた。


「――って、ジーク! お前俺以外の奴とも話せるのか⁉」

<当たり前だ。何故ルカと会話が出来て他の奴と出来ん。そこは我の気分次第だ>


 何だそれ~。3年も経って初めて知ったぞ俺は。まぁ今思えば黙っててくれた方が何かと良かったけどな。バレたらいちいち面倒だし。


「凄い……!本当に存在するだね、竜神王ジークリートって……。驚き」

「俺も驚いてるけど、まぁ取り敢えず害は無いから安心してくれ。王だからちょっと偉そうだけど、根は良い奴なんだ」

<ルカ。貴様そんな風に思っていたのか>

「逆に自覚なかったのか」

「ハハハハ!ルカとジークは仲良しだね。そもそもどうやって出会ったの?」


 レベッカの何気ない問いに、一瞬胸の奥が高鳴った。

 僅かに空けてしまった変な間のせいで、レベッカが何やらバツが悪そうな表情を浮かべた。


「大丈夫だよレベッカ。今まで誰に話してこなかったから慣れてなくて……。

俺がジークと出会ったのは3年前、王国を襲ったモンスター軍の襲撃の時さ――」


 俺は気が付けば全てをレベッカに話していた……。


 母さんが死んだ事、自分が死にかけた事、ジークと出会った事、パーティから追放された事。


 レベッカと出会う前の事も知ってほしくて、俺は全てを彼女に話してた――。


「そうだったんだね……」

<まさかルカが召喚魔法もまともに使えんとは思わなくてな>

「それは何度も悪かったって謝っただろ」

<その後もあんな奴らの為に我の力を使いよって。しかも後方からサポートなど暇で暇でしょうがないわ>

「ハハハ、それも悪かったよ」

<改めて思い出したら腹が立ってきた。我はもう寝るとする>


 そう言ってジークは本当に眠りについてしまった様だ。


「おいおい、何だコイツ。また勝手なッ……⁉」


 次の瞬間、気が付くと俺はレベッカに抱きしめられていた――。

 

「辛かったね。もう大丈夫だよ」

「……⁉」


 レベッカのその一言で、俺の目からは涙が溢れ出した――。


 甘い香りと優しい暖かさ。


 そっと寄り添い抱きしめてくれたレベッカの腕の中で、俺は自分の目から流れる大粒の涙を止められなかった――。



                    

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