一方、グレイパーティは…③
~ドラシエル王国・王都~
「――それじゃあラミア、取ってきた薬草と素材の仕分け頼むな」
「うん、わかったわ。任せて」
「取り敢えず次は3日後だな。じゃあまたギルドでな」
「全く……。じゃあな」
王都に戻ってきたグレイ達はギルドに報告し後、兎に角休もうと直ぐに解散したのだった。パーティを組んで初めてとも言っていい予想外の出来事に皆限界だったらしい。
翌日――。
十分に睡眠を取ったラミアは回収した薬草や素材の仕分けを行う為、ギルド近くの作業場に来ていた。
此処は冒険者達がクエストで回収してきた薬草や素材の仕分けをしたり、買取前に綺麗に洗浄したりする場所だ。
昨日のクエストでブラハムが野宿の準備をし、トラブルを招いたがゴウキンが火の番を担当した。だから回収した薬草と素材の仕分けはラミアが担当となっていた。
「ふぅ。こんなの直ぐに終わらせて次のクエストまででのんびりしようっと」
ラミアはこの時、疑うことなく余裕だと思っていた。仕分けなど誰にでも出来る雑用作業だと――。
ラミアには薬草や素材の知識が最低限は備わっていた。だから回収した素材だって魔法が得意だからすぐに仕分けや洗浄もお手の物だと。だが……。
「ちょっと!これ何⁉ さっきから似たようなのばっかり……。アイツら人がやると思って雑に入れ過ぎなのよ!信じられない!」
今回ラミア達が回収した薬草や素材は、量だけで見ても平均より少なめ。勿論討伐がメインの為、目的の素材以外はおまけの様なものだ。そして特別貴重な物も無ければ、扱いや洗浄が難しい素材は何もなかった。
しかし慣れていないラミアは思った以上にこの作業に手を焼いた。途中で心が折れかかってしまう程であったが、薬草や素材は当然汚れている。買取の前にしっかりこの作業をしないと売値が物凄く低くなってしまうのである。
そうとはしっかり分かっていたが、疲れて集中力のなくなったラミアは作業が雑になった。
「あー疲れた、もうこれぐらいでいいでしょ。薬草は大して汚れていないし、このまま売っちゃえばいいわ。後はこっちの素材ね……。これなら――」
薬草の仕分けが終わり、次に素材に手を付けたラミアだったが、回収の仕方が雑だったせいかこちらも先ずは洗浄が必要だった。モンスターの血や泥がこびり付いていて到底売り物にならない。
ラミアは素材を綺麗にするのにこれまた時間を要した。
「もうッ……! 何で?全然取れない。私、水魔法が1番得意なのに……!」
作業場で同じように作業をしている他の冒険者達はいとも簡単にやっている。そもそもラミア達程素材の汚れが酷くもなければ、ラミアと同じ水魔法が得意な者達が手際よく処理していた。
(何でこんなに差が出るの……? ぶっちゃけ頼みたいけど私はSランクパーティーの冒険者。あんな底辺の奴らに絶対お願いなんてしたくない!)
自意識過剰なプライドが邪魔をし、ラミアは仕方なく1人で作業を進めたのだった。
そして、全ての素材の処理を終えるのに、結局夜まで時間が掛かってしまった……。
~グレイとラミアの家~
「――ただいま……」
ラミアが疲れ切って家に帰ると、同棲しているグレイがソファでくつろいでいた。
「おかえりラミア。どうしたんだよ、随分遅かったな」
そう言いながらグレイは帰ってきたばかりのラミアを抱き寄せ、軽いキスをした。そしてそのまま激しい接吻をしながら、グレイの手はいやらしい動きでスッとラミアの身体を触っていた。
勿論グレイは“その気”であったが、如何せんラミアは違った様だ。
「ちょっと止めて。先にお風呂に入りたいし凄い疲れたんだから。そんな気分じゃないのよこっちは」
「風呂なんて気にするなって。ラミアはいつもいい香りだから、そのまましようぜ」
「だから止めてって!ほぼ立ちっぱなしで疲れてるの。ゆっくり休ませてよ」
そういう事ではないと、ラミアは若干イライラした様子でそう言った。一日中くつろいでいたグレイにはそこまで気が回らない。若さ故の欲が勝っているのだろう。
「ただの仕分け作業だろ?誰にでも出来るじゃねぇかあんなの。何そんなにイライラしてるんだよ。それなら俺がその気にさせてやるって、な」
そう言ったグレイはラミアの服の中にグッと手を入れ、彼女の豊満な胸をいやらしく揉み始めた。
「ねぇちょっと!嫌だって言ってるじゃないッ!」
――バチンッ!
しつこいグレイに対し、ラミアは思わず平手打ちを食らわせた。
「痛ってーな!何すんだよ!手ぇ出す事ねぇだろうが!」
思い通りにならない事と急な平手打ちによってグレイも怒りをあらわにし、ラミアに怒鳴りつけた。
「先に手ぇ出したのはグレイでしょ⁉ 自分勝手もいい加減してよね!アンタは何もしてないから無駄な体力ばっか残ってんのよ!」
「はぁ? いい加減しろよラミア!俺はリーダーとしての役目を果たしてるだろうがッ! 全員で順番に担当なんだから当たり前だろ!」
「何がリーダーの役目よ! 自分が面倒な事したくないだけでしょ!」
「何言ってんだ!昨日のスカルウルフの襲撃だって最初に気が付いたの俺だろ!」
「あんなの思いっ切りたまたまでしょ!」
結局、グレイとラミアの口論は夜中まで止まらず、散々言い合った2人は喧嘩したまま眠りについたのだった。
だが次の日の朝。
一晩明け冷静になったのか、2人は仲直りをするなりまた甘い世界へと入り込んでいくのだった――。
♢♦♢
~冒険者ギルド~
前回の解散時から約束の3日後。
この日は次のクエストを受けるべくギルドに集合する予定だった。しかし、前夜に甘い世界でラブラブしていたグレイとラミアはかなり遅刻。既に待っていたブラハムとゴウキンは呆れた顔でギルドに来た2人を見ていた。
だがブラハムとゴウキンがそんな顔をしていたのには他にも理由があった――。
「悪いな遅れて」
「ふん、そんな事は“もうどうでもいい”」
「ああ。それよりも……」
次のゴウキンが発した言葉に、グレイとラミアは固まった。
「は? ルカがSSSランク……?」
驚くというより、何を言っているんだといまいち吞み込めていないグレイ。ルカがFランクという事はここら辺の冒険者界隈でも当然知れ渡っている。今ブラハムとゴウキンと話している他のパーティの者達もそうだ。
Fランクはある意味SSSランクぐらい珍しいとも言えるから。
グレイは胸の奥底で一瞬嫌な感じをしたが、それには気にも留めず話を進めた。
「そうらしいぜ。何か受付で黒色のタグ出しててよ、係りの人に聞いたら確かにSSSランクって言ったんだよ」
「いやいや……。どうやったらそんなにランク上がるんだよ。つうかそもそもあのルカだぞ!何かの間違いだろ!」
「俺達だってそう思ってるけどな」
「そりゃそうだ、だってあのルカだからな! 多分お前らのとこのレベッカより使えないだろ」
「そうなのか?まぁこっちはこっちでルカの事より、そのレベッカが何より問題なんだけどさ……」
グレイが1ミリも納得出来ない中、ブラハム達の雑談はいつしか話題がルカから他の冒険者へと切り替わっていた。
ただグレイのモヤモヤは全く消えていない。
(一体どういう事だ?あのルカがSSSランクなんて絶対有り得ねぇぞ……⁉︎ 完全に人違いだ。受付の奴が何か勘違いして言ってやがるに違いない。
ルカとはこれでも幼馴染。俺が冒険者になった時からずっと知っているが、アイツは間違いなくFランクだ。しかも雑用しか出来ない。
考えれば考える程、絶対間違いの他ない。万が一そんな天変地異が起こったとしても、アイツが俺達のパーティを抜けたのはほんの数日前……。
この僅かな時間でFランクがSSSランクなんて死んでも有り得ねぇ!)
絶対に有り得ない筈なのに、グレイは何故か苛立ち収まらなかった。
「無駄話してないで行くぞお前ら!」
グレイパーティは前回のソンモンキー討伐の失敗を取り戻すべく、新たな討伐クエストを受けるのだった──。
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