13 思いがけない依頼

~ルカの家~


「――おはよう」

「あ、ルカ!おはよう」


 昨晩の出来事から一夜明け、目が覚めた俺は既に起きてリビングにいたレベッカに声を掛けた。


 何か微妙に気まずい……。

 柄にもなく人前で泣いてしまった。しかも結構がっつり。それも女の子の前で。


 全く気にしていない様子のレベッカは朝から変わらず元気だが、正直俺は滅茶苦茶恥ずかしくてこの場にいるのがちょっと嫌だ……。と、思っていたのだが、よく見るとレベッカも些か顔が赤く見えた。


 ひょっとしてレベッカも気まずいのか……? やばい。余計に俺まで意識し始めちゃったけど、流石に無視する訳にはいかねぇぞ……。


「レベッカ、今日クエストに行こうと思うんだけどどう?」


 俺は精一杯普段の自分を取り繕って、何気なく声を掛けた。


「え、クエストに? 勿論大丈夫だよ。寧ろ行きたいな!」


 一瞬恥ずかしそうに見えたけど、自然に返事を返してくれた。

 取り敢えず大丈夫だよな。意識する方が余計可笑しくなるし……。


「それじゃあ朝飯食べたらギルドに行こうか」

「うん、分かった!」


♢♦♢


~冒険者ギルド~


「――あ、ルカさん!実はちょっとご相談が……」


 クエストを受け様と受付に行くなり、マリアちゃんが俺達にそう声を掛けてきた。


「どうしたの?」

「あの、昨夜リアーナさんから調査の依頼が入りまして……。調査と言っても問題なければそのまま討伐してほしいと。対象はウォール湖のチャイルドベアーで、リアーナさんから是非ルカさん達にお願いしたいと頼まれているんですけど」


 マリアちゃんは事情を説明しながらクエスト内容が記された紙を見せてくれた。


「リアーナさんって……あのSランク冒険者の? この間初対面でマスター達と一緒に俺を攻撃してきたあのリアーナさん……?」


 勿論その名前は知っている。氷の魔法使いリアーナと呼ばれる有名な人だから。しかも既に会うどころかまともに挨拶する間もなく攻撃されるという特殊な出会いをした関係だからな。


「そうです。そのリアーナさんが是非ルカさんにと依頼をされているのですが、どうでしょうか?」


 正直理由が全く分からない。確かに先日の件で面識はあるが、何でわざわざ俺なんかにお願いしてくれたのだろうか?


 とても疑問に思ったが別に断る理由も無い。

 寧ろクエストを受けに来た訳だし、幾ら個人のランクがSSSであってもパーティを組んだのはつい最近。肝心のパーティランクはFのままだからどの道Fランクのクエストしか受けられなかった。だからある意味ラッキーだなコレは。


「その話し受けさせて下さい。あ、勿論報酬とかは貰えるよね?」

「本当ですか! ありがとうございます、助かります!勿論報酬は出ますよ」

「了解。じゃあこのクエスト行ってきます」


 こうして、ひょんな事から俺はリアーナさんから頼まれたクエストを受ける事にした――。


(流石ルカさん、頼りになりますね。リアーナさんにも早速報告しなくちゃ。え~と、確か依頼を受けて貰ったらルカさんのパーティーランクを一気にDまで上げる様にとの事だったよね……。


よし。これで登録完力っと!

 

それにしても、さっきはリアーナさんが止めにきてくれて良かった。グレイさんに、朝から調査したモンスターの結果はどうだったかと詰め寄られて大変だったから凄く助かった……。


事情はよく分からないけど、リアーナさんからももうグレイさんの言う事は無視していいと言われたから、もしまた同じ様な事があったら早めにマスターにでも助けてもらわなくちゃ――)



♢♦♢


~ウォール湖~


 綺麗な湖として知られるウォール湖。王国から割と近い位置の湖だが、ここは辺りの森が結構入り組んでいる。そこまで危険なモンスターはいないが、唯一ここらを縄張りに生息しているチャイルドベアーだけが厄介な存在だろう。


「――全然魔獣が寄ってこない。これもルカの力なの?」

「まぁな。正確にはジークだけど」

<よく分かっているな。我の魔力ならば大抵の雑魚は寄ってこぬ>


 ジークの力は本当に使い勝手が良い。コレもドラゴンの王の力なんだろう。本来なら当たり前に出るモンスターが本当に出て来ない。虫除けみたいな効果があってとても便利。


「凄いね! 流石伝説の竜神王」

<まだまだ我の力はこんなものではない>


 機嫌がいいジークは珍しくずっと話している。

 コイツは結構単純な所がある。勿論本人にはそんな事言えないけどな。それにレベッカの自然な反応もまた良いんだろう。


「――うるせぇな! リーダーは俺だろ!」


 森に入って直ぐ、俺とレベッカではない聞き覚えのある声が不意に響いてきた。


 うわぁ……。この声は間違いない。でも、会いたくねぇな。



「は⁉ 何だその言い方!」

「だったらお前は何するんだグレイ!」

「また何もしないつもり⁉ 私だって今日はもう何もしないからね!」


 やっぱりグレイ達か――。

 何でこんな所で言い争っているのか知らないけど、会ったら絶対面倒だな……どうしよう。


<ルカ、こっちからも奥に進めるぞ>


 俺と同じ事を思ったのか、ジークが別の道を教えてくれた。


「本当に? それならこっちから行こう。レベッカ、こっちだってよ」

「う、うん。もしかしてあの人達って……」

「そう。あれが俺の元パーティーの奴ら。そんなのどうでもいいから早く行こうぜ」


 見るだけで気が滅入る。

 正直何時か顔を合わせた時、俺はどういう気持ちでいるんだろうと思ったが、実際にそうなると何でもない。どうでもいいし関わりたくもなかった。


 俺にはジークがいるし、レベッカもいるんだから――。



♢♦♢



~ウォール湖・湖前~


「着いたな。じゃあ一先ず、今日は1人で任せてもいいかレベッカ」

「え⁉ 1人で……?」

「ハハハ、勿論俺もフォローはするよ。ジークとも話したんだけど、レベッカのその魔力イーターって言う体質、先ずはやっぱりそれをコントロール出来た方がいいんじゃないかと思ってさ」


 話はやはりここからだと思う。

 俺は勿論の事、魔力イーターをコントロール出来ればレベッカ自身が1番助かるし、悩みも無くなるんだから。それにこの能力は自在に扱えればかなり強力だ。


「魔力イーターの力をコントロール……」

<そうであるレベッカ。主は元の魔力量が高い事に加え、他の者の魔力も吸い込み取り込んでしまう。故に人並み以上にコントロールが難しい。

だがそのコントロールが出来れば、主の1番の強みとなろう>

「そっか……分かったよルカ、ジーク“ちゃん” ! 私やってみる」

<なッ……⁉>


 レベッカはやる気になったらしく元気よく返事をした。だが気になったのはそのすぐ後――。

 

 レベッカがまさかのジークをちゃん付けで呼んだ事に、ジークは勿論俺も一瞬驚いた。だが……。


「ハッハッハッハッ!」


 気が付けば俺は笑っていた。


<な、おいッ……笑うでない! それにレベッカよ! 今の呼び方は何だ!>

「呼び方って……もしかして嫌だった? 私は可愛いと思うんだけど。ジークちゃんって!」

「ハ~ハッハッハッ!」

<コラッ! 笑うなでないぞルカ!>


 思いがけない話の流れによって、レベッカの中で呼び方はジークちゃんになったらしい――。


<もうよい! 早くあの熊を倒せ!>


 口調は荒いが本当に怒っている訳ではない。これは恥ずかしくて照れ隠しをしている。俺にはそれが直ぐに分かった。


「うん、やってみるね!」

「あっちにいるなチャイルドベアー。魔力を感じる」

「よーし……」


 目的でったチャイルドベアーは目と鼻の先。岩陰に隠れていたが、魔力感知でレベッカも位置を捉えた様だ。そしてレベッカは集中した表情で魔力を高めると、魔法攻撃を繰り出した。


 ――ズガァァァンッ!

「わッ⁉」


 レベッカが放った攻撃は岩を砕き、そのままチャイルドベアーを直撃。1発で倒してしまった。


「な、何今の威力……⁉ 何時も通りに打っただけなのに凄いの出ちゃった……」

<今は我の力も反映されている。そんなに力まずもっと楽に放てば良い>

「そうなんだね……。分かった!次は気を付ける」

<じゃあついでに向こうにいるモンスターを狙ってやってみろ>

「うん!」


 その後レベッカの魔力コントロールの為に暫しモンスター討伐をした後、俺達はギルドへと戻った――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る