27 実力者の遊びは可笑しい・続
♢♦♢
~訓練場~
ピノと勝負が着き、倒れたピノをクレーグが運んで行った。そして次はどうやらジルフらしい……。
「ジルフ……さん。宜しく」
「……さんは要らない……」
ジルフは静かに一言だけそう言った。
うん、よし。慣れるまで時間が掛かりそうだけど、この人はこういうタイプの人なんだよな。取り敢えず堂々と立ってるという事は、やっぱりピノみたいに俺と戦うつもり……だよな? 攻撃していいのかな?
<早くしろ>
迷っている俺にジークが声を掛け、俺は一先ず雷魔法を放った。
「“トール”!」
「……“
俺の雷とはまた違う輝きを放った光が、突如ジルフの前に現れ雷をを防いだ。しかもかなりの魔力コントロール。さっきのピノの防御とは違い、俺の攻撃に対して余計な魔力を使わない“確実な相殺”。
今の1回でジルフも只者ではない事が分かった。
「かなりの高等技術だ……。魔法が得意なら恐らく中、遠距離タイプだろう。接近戦で勝負だ!」
――ガキィィンッ!
雷を纏わせた俺の一太刀を、ジルフは手から放った風魔法の風圧で遮った。そしてジルフは更に反対の手から光魔法を出し、両手の風と光の魔法を融合させ攻撃を放ってきた。
――ズガァァンッ!
「危ね……!」
俺はジルフの攻撃を間一髪で回避した。壁に衝突したジルフの攻撃は激しく弾けて消えていった。
<これはなかなかセンスのある奴だ。初めて人間相手に関心したわ。まさか違う属性のものを融合せるとは>
ジークが相手を褒めるなんてマスターやジャックさんの時以来だろう。それぐらいジルフも実力者という事だ。
「でも、近づけさせたくない感じだから、やはり接近戦なら俺に分があるよな」
<分かってるならやれ>
そう。魔法を繰り出すのも早いジルフに対抗するには、それを上回るスピードで一瞬で距離を詰める……と、俺とジークの意見はまとまっていたのだが、どうやら戦闘は人見知りではないらしいジルフが既に次の攻撃魔法を放っていた。
「“
氷と炎の弾丸が無数に上空に放たれ、それが俺を追跡するかの如く降り注いできた。
――ズガガガガガガッ!
広い訓練場を駆け回りながら避ける。やはり追跡式なのか全て的確に俺を狙ってくる。それに1発1発威力が強い。数も多いし。
俺はジルフの攻撃を躱しつつ距離を詰めるタイミングを見計らっていた。だが、そこまで予測していたであろうジルフは、攻撃魔法を繰り出しながら更にまた防御壁を出し身を守ろうとしていた。
<ほぉ、やはり相当のセンス。2つを融合させるだけでなく複数同時魔法も扱うとは>
「褒めてる場合じゃねぇ……させるかッ!」
俺は即座にドラゴン化し、ジルフが防御壁を出し切る前に一瞬で距離を詰めた――。
流石のジルフも驚いた表情を浮かべ、直ぐに何か魔法を放とうとしたが、間に合わないと判断したのかスッと手を下ろして小さく「降参……」と呟いた。
その言葉を聞いた瞬間、俺も反射的に攻撃を止めていた。
「強過ぎだね……」
「いや、ジルフもかなり魔法センスあるよ。俺が出会った中で1番だ」
俺がそう言うと、ジルフは少し口元を緩め、嬉しそうな表情をした。
成程……。可愛いとこがあるとはコレか。確かにその通りだ。ギャップがある上にやはりこの整った顔面。羨ましい……。
「……クレーグ呼んでくる」
可愛いらしい表情を見せたのは一瞬。ジルフはまた無表情戻ってクレーグを呼びに行った。
「――なかなかやるねルカ。2人を瞬殺なんてさ」
この流れはやはり全員と戦うみたいだな。最後はクレーグか。基本的に他の観覧は無しとの事だが、クレーグが許可してピノとジルフも訓練場に入って来た。さっきの戦いで気絶させてしまったピノもどうやら大丈夫そうだ。
良かった……。ちょっと心配だったんだよな。一先ず安心だ。
「ピノもジルフも確かに強かった。だけど、申し訳ない……。俺は更に上を目指している。なにせこの世界のモンスターを全て駆逐しなきゃいけないからな――」
「クククク、それはまた面白い事を言うね。だとしたら僕にも余裕で勝たないとね」
そう言うと、クレーグは重そうな長剣をいとも簡単に振り回した。ダッジ隊長と違って特別ガタイが良い訳でも筋肉が凄いある様にも見えないのにな。
この人も強い……。先手必勝だ。
「“
俺は掌から炎の龍を出し勢いよくクレーグに放った。
――ブワァァンッ!
クレーグが炎の龍を長剣で受け止めた瞬間、炎がみるみるうちに小さくなっていった。
「“ブラックホール”――」
気が付けば炎の龍は吸い込まれる様に消え去ってしまった。
「なんだ……? 相殺された?」
<違うな。今のは吸収された。どうやらあの剣の力か何かだろう>
「そんな武器あるのかよ。ならこっちも剣でいくッ……『――ガキィィン!』
刹那、一瞬で距離を詰めてきたクレーグが長剣を振り下ろしてきた。ギリギリ俺は剣で受け止めたが攻撃が重い。軽々振っている見た目に反して、体の芯まで響いてくる。
「“トール”!」
「“ブラックホール”!」
炎がダメならと雷を放ったが、さっきと同じ様に全て長剣に吸い込まれた。続け様に2撃3撃と放ったが結果は変わらず――。
俺は一旦クレーグと距離を取った。
「厄介だなーアレ。どうしよう」
<造作もない。我の魔力とこの剣を合わせれば魔力量はほぼ無限だ。気の済むまで吸わせてやれ>
「確かに。そうするか」
攻撃手段も決まり、俺は再びクレーグに剣を振り下ろす。すると当然のごとくクレーグは長剣で受け止めた。
よし。ここからだ。
「これじゃずっと同じだよ?」
「心配ご無用」
余裕な笑みを浮かべるクレーグに対し、俺もニヤリと笑った。そして魔力が吸い込まれていく事を確認した俺は一気に魔力を注ぎ込んだ。
「わッ……⁉ コレは凄まじい魔力だね。でも、こんな勢いで放出したら持たないよ?」
「心配ありがとう」
吸い込み続ける長剣に対し、更に魔力を注ぎ込んだ。
「おいおい……! 無理しないでそろそろ止めた方がいいんじゃない?」
魔力を注ぎ込む程クレーグの笑みが消えていく。焦ってるみたいだな。それにしても……もうかなり出してるのに何処まで吸い込むんだコレ。
「ゔゔッ……⁉」
「大丈夫かクレーグ?」
「余裕だよ! まだイケるね……!」
「そりゃ凄いな。俺はもう3分の1は吸い込まれてるからどっちが持つか勝負だな」
「なッ⁉ さ、3分の1だって⁉ クソッ……これはもうヤバいッ……“解除”!」
遂に限界がきたのか、目の色を変えて焦り出したクレーグは突如長剣の形を変え球体をにした。そしてその球体を慌てて頭上にぶん投げた。
――ボォォォン!
空中に投げられた球体は激しい轟音と共に爆発したのだった。
「危なかったぁ!」
「いや……こっちの台詞だよ! 限界だったなら早く止めろよな!」
「副隊長のプライドさ!」
「何だそれ。武器よりそのプライドを投げ捨てた方が……」
どうやらこの勝負も俺の勝ちで終わったみたい。
「凄いなルカ!」
見ていたピノとジルフが駆け寄って来た。
「俺クレーグが負けたの初めて見たな」
「隊長依頼……」
「ホントだよ。まさかこんなデタラメな魔力量だとは」
やっぱクレーグも只者じゃなかったな。それよりあの武器何だ?
「クレーグの長剣、アレって何?」
「ああ。アレは僕の特殊適性である“金操作”だよ。金属を自在な形に変化させられるんだ」
へぇ~。これも初めて聞いたな。この特殊隊って本当に珍しい力持った人ばかりなんだ。
「クレーグは武器マニアだから、ルカも何かあったらイジってもらいなよ」
「ああ、ありがと。でも俺はこのままで大丈夫かな。それよりレベッカの杖見てやってほしいんだけど」
「レベッカの杖? OK!後で聞いてみる」
そんなこんなで“遊び”は終わったらしい。俺は部屋に案内され、軽く荷物を整理した。クレーグから「ご飯になったらまた呼ぶよ」と言われたのからそのまま部屋で休んでいると、レベッカも疲れた様子で部屋に来た。
「お、レベッカ。そっちはどうだった?」
「え……うん!大丈夫。仲良くなったよ!ルカは?」
「俺も取り敢えず大丈夫かな。ちょっと疲れたけど」
「そうだね……本当に疲れたよ。私も休むからまた後でね……!」
こうして俺達の新たな生活がスタートしたのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます