30 新たな仲間


「ほ、本当にッ……⁉ ありがとうございます! 本当にありがとうございます! 何も出来ませんが、出来る事は何でもやりますので!」

「何もしなくていいって別に」

「竜神王の次は美女、そして不死鳥まで仲間にするとは……。流石SSSランク」


 キャンディスさんが珍しく小声で呟いていたから、俺は思わず聞き逃した。何て言っていたのだろう……?まぁいいか。


「特殊隊の寮って聖霊いいのかな?」

「別に大丈夫なんじゃない? そこを気にする様な場所じゃないと思うけど……って、ちょっと失礼発言よね」


 まぁ確かに。ある意味聖霊より珍しい人の集まりだからな。


「すみません……。なんか早くも迷惑を掛けてしまっている様で……。私がちゃんと聖霊魔法を使えれば、一応人の姿にも変化出来るんですけど……」

<――ルカ。どうやらコイツ、レベッカと“同じタイプ”らしいぞ>


 急に会話に入ってくるなり意味深な事を言ったジーク。


「どういう事?」 

<ニクスとか言う奴も魔力が多いんだ。だからコントロール出来ていない。レベッカ、ニクスの魔力を吸ってやれ>

「え、うん、分かった」


 戸惑いつつもレベッカはジークに言われた通りニクスの魔力を吸い始めた。すると、明らかにニクスの調子が良くなった。


「あれ……? 何だか体が軽いです。今まで以上にしっかり魔力も感じます」

「へぇ、本当に魔力コントロール出来ていなかっただけなのか」

<ハッハッハッ。こりゃ互いに互いを使えるいい訓練相手だ>


 直ぐそこに行き着く発想が恐ろしいなコイツ。


<今なら主でもコントロール出来る筈だ。魔法出してみろ>

「え、本当ですか⁉ って言うかさっきから聞こえるこの声の方は……?」


 ジークを知らないニクスは辺りをキョロキョロ見渡しているが、当然ジークの姿を見つけられない。ニクスがそんな事をしていると、ジークが<早くやれ>と煽った為、戸惑いつつニクスは魔法を使った。


「“不死の加護ホーリー”」


 ニクスが部屋に置かれていた花瓶の花に向けて魔法を出すと、枯れていた数本の花がみるみるうちに色鮮やかに花を咲かせ、他の花もよりピンと茎が伸び綺麗に咲き誇った。


「わッ! 本当に出来た⁉」


 ニクス本人が1番驚いている。

 しかも流石不死鳥の魔法。簡単に出した回復魔法の効果が凄い。


<ニクス、主はまだ若く未熟だ。それ故自身の多い魔力を扱いきれていないのだ>

「成程。そうだったのか……って、さっきから誰でしょうかこの声は?」

「ジークちゃんだよ! 」

「ハハハ、それじゃあ分からないだろ。ニクスは竜神王ジークリートって知ってるか?」

「ええ、それは勿論聞いた事があります……。何でも昔存在した危険なドラゴンだと。だから絶対に近寄ってはいけないと言われました」


 声の主が“その”ジークリートだとまだ察していないニクスはこれでもかと正直に言った。それを聞いた俺もレベッカもキャンディスさんも大笑い。このピュアさがニクスの良い所なんだろう。


<――ほぅ。誰がそんな事を言ったのだニクスよ。“我”の悪口とは聞き捨てならんな>

「我って……。えッ⁉ う、嘘ですよね⁉」


 遂にニクスも状況を理解した様だ。


「本当だよニクス。俺の中に魔力の魂となったジークリートがいるんだ。安心してくれ。態度はデカいけどいい奴だからさ」

「まさか本当に存在したとは……竜神王ジークリート。驚きましたがルカさんの言う事なら信じます!」

「ありがとう。あ、そう言えばさっき人に変化出来るって言ったけど、もしかして今なら出来る?」


 別にどちらでも構わないが、フェニックスなんて珍しいからまた変な奴らに捕まえられるかもしれない。それなら人の方がいいよな多分。


「今なら出来る気がします!」

「ちょっと待って! ニクスって女の子……だよね? 一応私って言ってるし……」


 そうだ。危ない。レベッカが確認してくれなかったらどっちに転んでもパニックになるところだった。


「はい、雌です。人間だと女の子ですね私は」


 気にしてなかったけど女の子かい。レベッカが確認してくれて助かった……。


「だったら私の服貸してあげるね。ルカ、収納してある私の着替え出してくれる?」


 レベッカにそう言われ、俺は空間魔法で入れておいたレベッカの服を取り出した。クエストや今回の任務みたいに何処かへ出掛けた時用に常に最低限の物を入れてあるんだ。


 準備も整い、ニクスは改めて魔法を掛け人の姿へと変化した。俺のドラゴン化と逆パターンだなこりゃ。


 女の子の姿へと変化したニクス。見た感じ俺とレベッカよりもやや年下っぽい。元のフェニックスとしての面影が綺麗な赤い髪へと反映されていた。


「ニクス可愛い~!」

「そ、そうですか? なんか照れますね」

「凄いな聖霊って! こんなの初めて見たよ私」

「これ人型になったって事はさ、ひょっとして冒険者として診断出来るのかな?」


 俺はふとそう思った。人ならば出来るんじゃないかと。しかもこんなの珍しいからちょっと興味もある。どんな測定値になるのか。


「面白そうだからやってみよう!マスターにも報告しないといけないし!」


 キャンディスさんも乗り気だ。まるで報告の方がついでみたいな言い方だし。


 勢いよく部屋を出て行ったキャンディスさんに俺達も続いた。



~マスターの部屋~


 今回の事を報告すべく俺達はマスターの部屋に来た。事情を整理すると案外複雑であった……。


 元々フェニックスは国境を越えた隣の王国で神聖なモンスターとして崇拝されている存在。別に何をした訳でもないが、俺達がフェニックスを手にしている事をどう思うかは全く分からない。


 これが普通のモンスターだったら話は別だが、今回はフェニックスだからややこしいらしい。


「――兎も角、事情は大方分かった。ギガントオークの群れの原因は不明だが、このニクスという彼女がルカ君達と行動を共にしたいと言うのならばそれはいいだろう。

それより別で気になったのが、聖霊である君を餌にしていたという野蛮な者達だ!」


 そう。報告を聞いたマスターもまた熱い人。ニクスの話しに相当怒りを露にしている。まぁキャンディスさん同様とても良い人だという事が伝わってくるけどね。


「ニクス君!そのどこぞの冒険者と思われる男達は、確かに“ドクロのマーク”が付いていたんだね?」

「は、はい! 皆腕や足や首など、場所はバラバラでしたが同じドクロのマークが記されていました」


 マスターへの報告で新たに分かった事。それがニクスを酷い目に遭わせた男達の正体だ。マスター曰く、奴らは俺達と同じ冒険者らしい。だが奴らは普通の冒険者ではなく、いわゆる半グレと言われる達の悪い犯罪者集団。


 なんでも、隣の王国では冒険者達が全員フリーであり、好きにパーティを組んだり組織化をしているとの事。しかもニクスが捉えられていたドクロのマークを付けた奴らは、金さえ払えば何でも請け負うと言う隣の王国でもかなり悪名高い集団らしい。


 聞いただけで不愉快だ。

 流石に隣の王国の事だから俺は何も言える立場じゃないけど、もし同じ王国内だったら間違いなく潰してやるけどな。


「一先ず、ニクス君の件は別の王国も絡む事案だ。本部や国王にも報告しないといけないから俺はもう行かせてもらうとする。ルカ君達もありがとう! 君らも国王団に戻って報告をしてくれ!また会おう!」


 そう言ってマスターは颯爽と部屋を出て行った。

 

 ……かと思いきや、直ぐに戻って来て「ニクス君の診断結果が出たら教えてくれ!」とキャンディスさんに一言だけ伝え再び去って行った。


 勿論報告の為というのもあるだろうけど、やっぱり皆聖霊の診断なんて見た事ないから気になるんだろうな。俺も早く見たいし。


 そんなこんなで、遂にニクスは診断を受けた――。



「……コレに魔力を流せばいいんですよね?」

「ああ」


 初めての事に戸惑いながらも、ニクスは魔石に魔力を流し込んだ。



『ニクス 魔力値:SSSランク


 適性:聖霊 

 

 使用魔法:聖霊魔法


 身体・特殊:魔力感知(S) 超再生(S) 

       超魔法(S) 


 性質:不死の加護 不死の再生 不死の運 』


 流石聖霊……。当たり前にSSSランクだよな。しかも超再生とか如何にも不死鳥っぽいし、不死の運って何だ? まさかそのお陰で今まで運良く生き抜いたとか……?


「あ、あの~。これはどういう結果なのでしょうか? 私、やはりお役に立てませんよね……」

「そんな事ないよニクス! 寧ろ凄すぎて驚いてる。こんな能力初めて見たもん。流石フェニックスだね」

「またルカのパーティが強くなったな!」


 兎も角、これで一応ニクスも冒険者登録出来るよな?俺達とのパーティ登録もしておかないと。


「よし、それじゃあ俺達も寮に帰るとするか。ダッジ隊長にも報告しないといけないし」

「そうだね」

「もう行くのか。じゃあ2人共元気でね!また一緒に戦おうよ!」

 

 こうして、俺達に新たなニクスと言うフェニックが仲間に加わった――。


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